妙応寺

これぞ地方禅院の典型的な七堂伽藍。ぜひ立ち寄りたい。

(岐阜県関ケ原町今須)

電車で旅をしていて車窓から立派なお寺が見えると「ここで降りる、電車を停めてくれ!」と思ってしまうのは私だけだろうか。妙応寺はその手の寺の代表的なものだ。東海道本線で関ヶ原付近の山中を通過するとき、線路の北側に見える禅寺である。

その寺に車で訪れてみた。

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しびれるようなすばらしい回廊寺院。私はこのタイプの伽藍配置には目がない。

地方の禅寺で回廊を持つお寺は貴重だが、ここ妙応寺はそのなかでも際立って伽藍が整った寺だといっていい。

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お寺に必要とされる建物がすべて揃っている様子を「七堂伽藍(しちどうがらん)」という。七堂伽藍は宗派ごとに異なるのだが、禅宗の場合は一般的に、①山門、②仏殿、③法堂(はっとう)、④庫裏(くり)、⑤座禅堂、⑥浴室、⑦東司(とうす)とされる。

ところがその教科書通りの七堂伽藍は実は国内はわずかしかない。そして、地方の寺巡りをしていると気がつくのは、禅宗には教科書通りの七堂伽藍のほかに、「本堂」を中心とした伽藍型式があるということである。

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禅宗の七堂伽藍にある「仏殿」とは本尊を納めた建物、「法堂」とは修行僧が仏教の講義を受けるための建物なのだが、日本のお寺のほとんどは本尊を納めた建物で法要も行なっており、2つの用途を兼ね備えた「本堂」という型式のお堂を伽藍の中心にしている。

妙応寺はそうした本堂を持つ寺でありながら、諸堂がよく整ってる。

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左図は妙応寺の伽藍を簡略に画いたもの。

本堂を中心に四角に建物が配置され、各堂宇を回廊が結んでいる。このような伽藍構成も七堂伽藍と言っていいのではないかと私は思っている。

この場合の構成堂宇は、①山門、②本堂、③庫裏、④禅堂、⑤鐘楼、⑥浴室、⑦東司である。あるいは、これに経蔵を加えてもよい。

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では境内を見てみよう。

山門は四脚門。

回廊を持つ寺としては控えめな門である。一般的には楼門の場合が多い。

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山門を入ると正面は本堂。

本堂の入口を見ると戸口が基壇の上のレベルにあることがわかる。禅宗の本堂の特徴で、戸を開けると室内にも土間があり、建物内の土間で履物を脱いで本堂へ上がる構造。仏殿が床をはらずに土間のままとする意匠を受け継いだものなのだろう。

他宗派では建物の外の向拝に階段があり、階段の手前で履物を脱ぐようになっている。

下の写真は山門側をみたVR画像。視線を左右に回転させてみてほしい。

コートハウスのように、境内が完全に建物に囲まれていることがわかる。

地方の回廊寺院で、あと少し惜しいところで回廊が途切れていたりする寺もあり、この妙応寺のように完全に閉じた回廊というのは貴重だ。

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本堂から左側を見ると開山堂がある。

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そのさらに左側には禅堂。つまり修行僧が座禅を組む専用の構造を持った施設である。扁額には「選仏堂」と書かれているが、選仏堂は座禅堂と同義である。

地方回廊寺院では禅堂は本堂から見て左側にあるのが一般的だ。

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続いて、本堂から右側を見ると庫裏がある。

地方回廊寺院では庫裏は本堂から見て右側にあるのが一般的だ。

庫裏のさらに右側には東司がある。東司とはトイレのことだ。

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東司や浴室は庫裏の右側に配置されるのが一般的だ。

禅宗では生活のすべてが修行と考えるので、トイレ、風呂も修行の場と考え、作法がある。本式の東司には烏枢沙摩明王という神様が祀られるが、もちろんこの寺の東司にもあった。

妙応寺には回廊内には独立した湯屋は見あたらないので、庫裏の一角にあるのだろう。

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東司のさらに右側、回廊の角の部分に袴腰(はかまごし)鐘楼がある。

袴腰鐘楼とは2階建ての鐘楼で、1階部分が袴のように末広がりになっているものをいう。

地方回廊寺院では、庫裏側の回廊の角にある場合が多く、その場合は袴腰内をL字型に通路が貫通している。

見ていただいたとおり、妙応寺は回廊が完全な形で残っている名刹である。惜しまれるのは独立した浴室が見当たらないことだが、私としては充分に満足できる伽藍構成だ。特に回廊が途切れず360度を周回しているのがすばらしい。今後この寺を、回廊寺院のリファレンスモデルとし、こうした本堂を中心として山門と回廊でつながっている伽藍配置を「妙応寺型回廊」と呼ぼうと思う。

この日はこれで日程を終了。次の日の訪問予定地である岐阜市へ向けて移動。途中、気になる立ち寄り温泉があったので立ち寄って汗を流した。

その後、岐阜市ではファミレスで夕食。私の旅行では、昼はコンビニのおにぎりかファストフードで済ませ、夜はなるべく地元ならではの飲食店に入るというパターンが多い。少し奮発して寿司屋などに入るときもあるが、そうでなくても定食屋などに入るようにしている。実を言うと、この日も市内の下見もかねて、かなりあっちこっち走り回ったのだが、ピンときた店が見つからなかったのだ。

そんなこんなで時間も遅くなってしまった。岐阜市内には泊まるところはたくさんありそうだったが、なぜか健康ランドに宿泊。健康ランドは入浴では何度も行っているが、実は宿泊はこの日が初めてだった。前日がカプセルホテルだったので、「よし、いっちょう比較してみるか!」という勢いもあった。

この健康ランドは横になって寝られるタイプだった。その後、他の健康ランドも何回か利用しているが、リクライニングソファしかないところもあり、その点では岐阜で泊まった健康ランドはかなりくつろげるほうだった。しかし結論を言えば、観光旅行で健康ランド泊はやはりお勧めできない。鉄道駅のあるような地方都市ならばやはりビジネスホテルに泊まるべきだし、山間地や沿岸部などでビジネスホテルがないときや、温泉地や著名観光地で安宿が存在しない地帯では(単身でも)ラブホに泊まるのがよいだろう。

(2000年03月18日訪問)