感応院

境内の三島社は堂全体が回転するという奇建築。

(神奈川県藤沢市大鋸2丁目)

藤沢市には時宗の総本山である遊行寺(ゆぎょうじ)という大寺がある。藤沢市の寺を紹介するならば、まず遊行寺を紹介すべきなのだろうが、今回は遊行寺にはふれず、その門前にある感応院を紹介しよう。このへんが「すきま」なゆえんなのだ。

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感応院は真言宗の寺で、藤沢市のなかでは最も古い寺のひとつという。

山門は薬医門。

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境内に入ると鐘堂がある。

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本堂。

本堂は向拝が左端に寄っていて、右側には玄関が付いている。普通、玄関は本堂の横に別の棟として建てられるのだが、この寺では本堂の正面半分が玄関であり、しかも本来の本堂の向拝よりも玄関の唐破風の方が大きいという逆転した作りになっている。

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境内は緑が多い。

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さて、この寺でぜひ紹介したいのが鎮守社の三島明神社である。

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写真のように1間四面、宝形造の堂である。明神ということで鳥居があるが、堂の作りはどう見ても仏教建築であり、意匠は唐様である。

手前の鳥居をよく見ると、柱のてっぺんで笠木を受けている台輪(だいわ)と呼ばれる部材が四角形をしている(通常は円形)。これはかなり変わった意匠ではないかと思う。大斗(だいと)鳥居と命名したい。

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さてこの三島明神堂、もともとは源頼朝が鷹狩りをする際に、行程の安穏を祈願して建てたものというが、現存する堂は他では見られない極めて特殊な作りをしている。なんと堂全体が回転するのだ。

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堂は亀腹基壇の上に載っており、堂の四面は同じ作りになっている。そして四隅の取っ手を押すことで、堂全体が360°回転する構造になっているのである。

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実際に回してみるとかなり軽く回転させることができる。ちょうど、輪蔵の経巻棚を回転させるような感じだ。野外で風雨にさらされているわりに、スムーズに可動したのは意外だった。

堂の回転の様子

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真横からの写真を見てみよう。堂は20cm程のシャフト1本で支えられており、他に荷重を受け止めるレールや車輪のようなものは見られない。

あとで建築学科卒の知人にこの堂の宗教的な意味はどういうものかと聞かれて、私は言葉に窮してしまった。あえて言えば「回すこと自体が功徳だ」というのが妥当な説明だろう。輪蔵のように内部が回転する建築物は群馬県の水澤寺に見いだせる。また建物全体が回転できる堂はここのほか兵庫県の須磨寺にもあるようだが、そこ何らかの普遍的な機能性が見い出せるものかどうか、まだ結論を出すのは早いように思う。

(2000年04月15日訪問)