鹿苑寺六角堂

恐ろしいまでにシンプルな国重文建築。

(岐阜県美濃市立花)

美濃市街を離れると、長良川は細い谷筋に入っていく。国道の左右にも山並みが迫り、一気に空が狭くなる感じだ。陽はとうに西の山陰にかくれ、谷は夕暮れに包まれている。あといくつか神社を見る予定だったが、どうやら今日はもうこれまでのようだ。観念して宿泊地である八幡町へ向かうことにした。

とはいえ、明日あまり道を戻るのもいやなので、国道に面している六角堂と洲原神社だけは今日中に見ていくことにした。

写真

鹿苑寺六角堂。室町時代の建築で国重文。まあ、近くを通るなら一応寄ってみるか、という気にさせるプロフィールである。写真を見ても、子供がサッカーでもしてそうな、気安く立ち寄れそうな場所に見える。

堂の横まで車で乗りつけて、写真だけは撮っていくかと思って、道路の案内にそって進む。民家の裏の草ぼうぼうの駐車場に車を停め、道案内を見ると「六角堂500m」とあるではないか!

写真

何かの間違いだろう、そう思って山道を進んでいく。50mも進まないうちに、何かの間違いではという気持ちはどんどん強くなってきた。ものすごく急な山道なのだ。

そこで引き返せば良かったのだが、人間、疲れると判断力がにぶくなるものだ。引き返す決断ができないまま急な山道を登っていく。道はどんどん急になっていく。なかばやけくそになったころ、六角堂のある広場に着いた。

六角堂。それが広場にぽつんとあるだけ。国重文というが意匠は恐ろしいまでにシンプルというか素っ気無いというか‥‥。あたりには他には休み処と水盤舎のみ。

それでも自分なりにこの六角堂になにか素晴らしいものが発見できないかと、周りを一周してみる。だが、どこから見ても恐ろしいまでにシンプルな堂でしかない。いや、堂というより近くで見ると山村の板倉みたいな感じだ。「どうしてこれが国重文なんだ? 室町だからか? そんなにえらいんか室町って?」自問自答するうちに、どっと疲れがでてきた。

帰りはまた500mの急な坂道。汗だくになり、ふらふらになりながら車まで戻ったときには、ぱらぱらと雨がぱらついてきた。この六角堂、本当に建物の善し悪しがわかる人でないと、この坂道を上り下りする労力は報われないだろうと思う。

(2000年04月30日訪問)