星宮神社

藤原高光の鬼退治の伝説の舞台。ウナギが棲むという。

(岐阜県郡上市美並町高砂)

旅は2日目。郡上八幡町内の宿を出て、まず前日の日程で見学するはずであった星宮神社へと向かう。昨日通った美濃市の方向へ10km以上戻ることになる。だが道路は空いているし信号もないので、途中道に迷いながらもわずかな時間で星宮神社に到着した。

星宮神社は藤原高光(たかみつ)という平安時代の歌人(?)が創建した6社のひとつであるという。この神社には高光にまつわる鬼退治の伝説が残っている。あるとき高光が帝の命令で神社の奥山の瓠ヶ岳(ふくべがだけ)に鬼退治に行った。高光はこの神社の辺りまできたときに、瓠ヶ岳へ登る道がわからなくなってしまった。そのとき、神社の脇に流れている粥川のウナギが正しい道を教えたため、無事に鬼を征伐することができたのだという。以来粥川の人々はウナギを敬い、氏子は今でもウナギを食べないという。(なお、このとき退治した鬼のミイラが和良村の念興寺にある。)

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まだ午前中なので、山には朝もやが残っている。参道が駐車場になっているが、私以外の参拝客はいないようだ。静かな境内だ。

土産物屋(?)が1軒あったが、営業していなかった。

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本殿と拝殿は唐破風や千鳥破風を重ねたややくどい作りだが、周囲のうっそうとした景色の中では、あまりいやらしさは感じられない。むしろ白木の古びれた柱や壁が神々しい雰囲気を感じさせる。

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境内の堂で見かけた鎌。

鎌は片刃なので、右利きと左利きがあるのだが、奉納されているのは左利き用の鎌ばかりだ。

どういういわれがあるかは不勉強のためわからない。

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奥の院の虚空蔵堂付近には大きな滝がある。水量と落差からして、魚が登れない魚止めであろう。滝つぼは大きな淵になっている。このあたりにウナギが生息するのだという。

ウナギは虚空蔵菩薩の眷族(=お使い)とされており、虚空蔵様を信仰する氏子がウナギを食べないという話はたまに聞く。そのたびに、私の家が氏子じゃなくて本当に良かったと思ってしまう...。

高光がウナギに道を聞くというのもヘンな話で、この地には先に虚空蔵の信仰があり、その神格を宣伝するために後から高光の鬼退治に協力したという話が生まれたのではなかろうか。

粥川は“岐阜県の銘水"に指定されており、かつ、長良川中流域は“全国名水百選"に指定されているわけだから、二重に選定されたきれいな水なのだ。淵は青々とした水をたたえていてのぞき込むと怖いほどである。

ところでこのあたりの長良川には海と真水を行き来するカニが生息するのだという。長良川の河口からは80~100kmほどは離れているはずだが、海とひとつになった生態系があるというのには驚かされる。そしてウナギにいたってはウソかホントかフィリピン海溝からやって来て日本の川で暮らし、また帰ってゆくのだという。まったく不思議としか言いようがない。虚空蔵堂の前の滝つぼをのぞき込みながら、私はそんなことを思い巡らせていた。

(2000年05月01日訪問)