上市の茶堂

山野集落の中心街にある三方吹き放ちの茶堂。

(広島県福山市山野町山野)

山野地区は福山市街地からは峠ひとつ越えた山奥で、ゴミゴミとした市街地から見れば別世界の山里だ。最初の目的地へ向かおうと思ったが、道ばたで面白い堂を見かけたので車を停めた。

それは、四国で「茶堂(ちゃどう)」と呼ばれる辻堂の一種である。実はこの種の堂を何と呼ぶかではけっこう悩んだ。「茶堂」という言い方は愛媛県での呼び方で、広島では「茶堂」とは言わない。しかし地元の人たちの呼び方である「お堂」「辻堂」「大師堂」ではこの堂の特殊性が伝わらない。比較的広い地域で通用する「四ツ堂」という名前は方一間吹き放ちという構造から見た呼び名だが、吹き放ちでない堂もあるため具合が悪い。やはりイメージがしやすく、かつ、他の建築と混同しないという点で、「茶堂」という用語を使うことにした。

茶堂は、教科書的な解説では旅人に茶を接待するための辻堂とされていて、実際に現在も茶堂で茶や菓子の接待をする年中行事が行われている地域もあるし、史料からも接待が行われたという記録は確かに存在する。

しかし、自分の足でこれらの堂を訪ねてみれば、その説明は半分は不自然だということがわかるはずだ。茶堂は人通りの多い街道筋に建っているわけではなく、他所者がめったに通らないどん詰まりの山村にあることが少なくないのだ。

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上市の茶堂は山野の商店や役場などがある中心部の辻にある。その点では、旅人に茶を接待するという説明が少しは通用しそうな立地だ。

構造は写真のとおり四方吹き放ちで、板敷きの床がある。壁は壊れてなくなったのではなく、最初からないのである。

大きさは一間四方。私の住む徳島県の茶堂は三間四方の大きなものが多いが、備後地方の茶堂は一間四方が普通のサイズのようだ。

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奥には祭壇があり、地蔵尊が祀られていた。

祀られているのは、一般的には弘法大師、地蔵菩薩、観音菩薩が多いと言われている。

構造的に見て、地震に弱いだろうし、風雪にもさらさせるため、あまり長い時間を超えてゆける建築ではない。

(2002年08月26日訪問)