群馬県稚蚕人工飼料センター

蚕の人工飼料「くわのはな」を製造している工場。

(群馬県高崎市金古町)

高崎市金古町には、群馬県の絹産業の博物館「絹の里」がある。立ち寄ってはみたが、当サイトでは一般的な博物館は紹介しないスタイルなので省略する。

代わりに博物館の隣にある、稚蚕人工飼料工場を紹介しよう。ここでは稚蚕飼育所で使用する「くわのはな」という飼料を製造している。「くわのはな」は桑の葉や大豆の搾りかすなどを原料に、熱処理で無菌化した"羊羹状"の飼料だ。(安中JAの飼育所で使用しているのを紹介したので参考にしてほしい。)

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これは飼料の原料となる桑を作っている桑園である。まずその仕立てが特殊なのが目を引く。

畝と畝の間がかなり広く、しかも車のワダチがついている。畑の中まで車で入れるのだ。一般農家の桑園では畝間に車は入ることができない。

そしてさらに特殊なのは二条植えになっていること。一つの畝に2列に桑が植えられている。これだと桑と桑の間に手が届きにくいので、手作業での収穫は困難になる。桑の刈り取りはおそらく機械で行い、その場でトラックに積み込むのではないかと思われる。

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桑の刈り方は極端な根刈り(ねがり)。「根刈り」とは桑の枝を切り戻す時に、地面に近い位置で刈り込むやり方。この写真で1mほど伸びている枝は、前年に伸びた分であり、次の収穫時には刈り取られるはずだ。

根刈りは一般的には、霜による被害が出やすい反面、地表に出る部分が少ないのでカミキリムシによる食害が起きにくいといわれている。ただしこの桑園に関しては、単に機械で刈り取るのに適しているという理由からこうなっているのだろう。

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新たに定植している箇所があった。畑の中の部分なので、病気で枯死した桑を植え直したのかもしれない。

植えたあとにマルチが敷いてあった。他の畝を見た限り桑株まわりは除草剤で処理しているようだが、定植した年度には除草剤は使えないのであろう。

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こうやって見える範囲だけでも2ヘクタールほどある。周辺の桑畑をあわせたらその倍くらいはありそうだ。

かつて群馬県では「桑の海」いわれるくらい、見渡すかぎり桑園が続いていた時代があるが、いまではもうこの飼料センターでしかその面影を見ることができない。

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桑を自動的に収穫できるバインダー。「信光式条桑刈取機」とある。

昭和の時代に養蚕の効率化、機械化を進めた結果、最後に行き着いた道具だ。

もっともこうした効率的な機械がメーカーが無くなったあと半世紀以上使えるわけはない。養蚕技術は昭和50年代ごろをピークに、道具の摩滅とともに徐々に時計の針を巻き戻すように後退しているはずである。農家でこれを使っているのは見たことがない。

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続いて、施設のほうへ行ってみた。

この日は休日だったため稼働はしていなかった。稼働日にもおそらく通常は見学はできないのではないか。

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建物には外側にガラス窓があって、内部が見えるようになっていたので、勝手に見学させてもらった。

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最初にのぞいた部屋には「桑葉調整室」という札が下がっていた。

右手の柵のある部分は地下への穴がありそう。トラックから桑の枝を投げ込むホッパーになっているのではないかと思われる。そして地下で細断された材料は、中央の垂直コンベアで取り出されて奥に見える機械に投入されるのではないか。

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その隣の部屋。

右側に「風選機」という札のかかった設備がみえる。これは葉と枝を分離するものだろうか。

中央に置かれた銀色の筒状の機械は緑茶の製造過程で使う蒸し器に酷似している。おそらく桑葉を蒸気で加熱・撹拌する装置とみて間違いないと思う。桑葉は奥から手前に向かって送り出されてくるはずだ。

そしてその後、また垂直コンベアで次の工程に送られるのだろう。

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一番奥に見える機械には「ミキサー」という文字が読めた。手前の青い設備には「空袋結束機」と書かれていることから、この部屋で飼料が袋詰めされるのではないだろうか。

チャンスがあれば詳しく見学したい施設だった。

(2011年05月05日訪問)