荒船風穴

蚕種を保存した天然の冷蔵庫。3つの室の跡が残る。

(群馬県下仁田町南野牧)

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この日は、豪農の見学と小坂川の谷の集落のチェックが目的だったので、一通りの目的は果たして、荒船の湯という日帰り温泉へと向かった。

その荒船の湯の近くに荒船風穴という養蚕関係の遺構があることを思い出し、もう遅い時間だったが立ち寄ることにした。風穴があるのは、国道から外れて細い山道を登り詰めた急傾斜の集落だ。

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標高があり、外界とは隔絶されているので、種苗会社が採種用の野菜を依託栽培しそうな立地だ。

急傾斜の畑の周囲はトタンの猪垣で囲まれていて、動物とのきびしい戦いを物語っている。

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風穴へは、駐車場と案内板があるので迷うことなくたどり着くことができた。

風穴は地下から冷たい風が吹き出してくる場所だ。富士山麓の溶岩洞窟のようなものではなく、石垣の隙間から風が吹き出てくる。その場所に縦穴を作って屋根を載せ、天然の冷蔵室にしたものなのだ。工事は明治38年に着工され、3棟の冷蔵室が建っていた。

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こちらは博物館「日本絹の里」で見た再現模型。

日本で使われているカイコは、春~初夏に孵化して世代交代する性質のものが多く、夏以降や秋には通常は生まれない。

現代のようにカイコを年に夏以降も飼育するためには、春に孵化するべき卵を冷蔵によって孵化を遅らせる必要があるのだ。

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こうした技術開発は主に明治に発達した。当初は夏以降にカイコを飼うと生糸の品質が下がると反発する考えもあったが、徐々に受け入れられ繭の量産技術が確率され、日本は生糸の輸出大国になってゆく。

全盛期には荒船風穴の施設全体で110万枚の種紙(卵を産み付けた紙)を冷蔵できたという。

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これは2号風穴。奥に見えるのが3号風穴だ。右側の石垣のすきまから風が出ているのであろう。本来はここに上屋が載っていた。

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これは1号風穴。

雪があったため、中に入って観察できなかった。機会があれば季候のよいときにまた訪れたいものだ。

(2010年02月20日訪問)