方寺戸のお化け階段

階段の前で手をはたくと音がこだまする。

(群馬県富岡市岡本)

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これから紹介するのは、このサイトでこれまで紹介してきたスポットのなかで、最も知名度が低いであろうと思われる物件。「方寺戸(ほうじど)のお化け階段」という名前も私が勝手に付けたもので、近所に住む人に聞き込みをしてみても、決まった名前はないようだった。

お化け階段は、方寺戸という字にある墓地へ行く階段で、その手前で手をはたくと音がこだまして聞こえるという不思議な場所なのだ。

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階段の手前5mくらいのところ、左写真の白丸あたりに立って手をはたくと、「パンッ」という音のすぐ直後に「ピョン」というような甲高い音がする。

山門の鳴き竜のようなものだが、鳴き竜が天井と床に挟まれた空間なのに対して、このお化け階段は、周りがひらけているのに音が反響するから不思議だ。

いまは車道から離れた畑の中になっているが、旧道はこの墓地の横を通るようになっていたという。

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この階段は、亡祖母のむかしばなしに出てくる場所だった。

祖母が子どものころ兄妹で遊びに出かけた帰り、暗くなってこの石段の前を通ったときに、この音を鳴らしているうちに怖くなって走って帰ったというような話である。大正時代のことだ。祖母の実家はここから3km以上離れた七日市だったから、当時の子どもはずいぶん遠くまで遊びに行ったものだと思うし、それだけ遠くの子どもにも知られていたスポットだったのだろう。

私がこの場所を見つけ出したのは、祖母が亡くなってからのことだった。むかしばなしの記憶と、祖母の実家の兄弟からの情報でこの場所を特定したのだった。もう音は鳴らないだろうと半分は思っていたのだが、階段は変わっていなかった。百年前、祖母が少女時代に聞いたのと同じ音を聞くことができたのだ。これはちょっと感動的な出来事だった。

だがこのむかしばなしも、だんだんと人々の記憶から消え去ろうとしている。こうしてネットに残しておいたら、次の百年を越えて二十二世紀まで伝わるだろうか。

(2008年09月20日訪問)