西深沢のベーハ小屋

内部には養蚕や糸繰りの道具がしまわれていた。

(群馬県高崎市吉井町多比良)

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巨大蚕室を見つけたすぐ近くに、ベーハ小屋を持つ農家があった。ちょっと遅めの時刻だったが、農家のおじいさんが出てきていたので話しかけてみた。

この地域では、養蚕と葉たばこの生産が特に盛んで、タバコ乾燥室が建ち並んでいたという。カイコは葉たばこの成分に弱く、養蚕とタバコの組み合わせは相性が悪いといわれている。桑畑の風上にタバコ畑があると、風で流れてくる成分が桑葉に付着し、それを食べるとカイコが中毒死するというほど、相性の悪い作物なのだ。

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しかし、この地域の農家はカイコを春と晩秋の年2回生産し、夏に葉たばこを生産することで、養蚕とタバコを両立させてきた。

このような複合経営を最近までしていた実例を徳島県で知っているので、作付け期間や畑の風向きなどを工夫すれば可能だったのだろう。なお、養蚕と葉たばこのスケジュールはだいたい次のようになる。

  • 春蚕飼育(5月上旬~6月中旬)
  • 葉タバコ(4月下旬定植、7月~8月収穫)
  • 晩秋蚕飼育(8月下旬~9月下旬)
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おじいさんがタバコをやめたのはもうずいぶん前で、細かなことは覚えていないということだった。

ベーハ小屋を建てる前は、在来種を生産していたそうだ。在来種は庭に連縄を張って乾燥させていた。在来種の品種については、名前を明確には知らなかったそうだ。資料を調べればわかると思われるが、「だるま」か「松川葉」ではないかと思う。(近いうちにちゃんと調べたい。)また、黄色種の品種(第1黄色種か第2黄色種か)も知らなかったそうだ。

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乾燥室内部を見せてもらえることになった。

外観から推定したベーハ小屋の形式だが、越屋根に突き上げ戸があることから「大阪式」と判断した。

土蔵造の建物の、東面、北面は納屋に抱き込まれていて、外部からは見えない。北面はカマドになっていて火を使うので、そこが屋内というのは不用心な感じもする。納屋は後補だろうか。

左写真は納屋から土蔵部分(ベーハ小屋部分)への入口である。

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乾燥室内部には、加温に使われたカマドの煙突や、鉄管(煙を通して室内を加熱するためのダクト)の残骸がころがっていた。

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カマドを乾燥室内からみたところ。丸い穴が上下に2つ見える。下の穴から鉄管で室内に煙を呼び入れ、一周させて上の穴から排気していた。このような乾燥室のカマドを「直流式鉄管」という。

ちなみに、カマドの手前にあるノコギリ状の木枠は養蚕で使う「カイコ棚」、左下に見える糸枠は座繰り繰糸に使うものだ。このお宅が手広く産品を手がけていたことがわかる。

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土蔵部分の北壁面。カマドがある面になる。

下側にある窓を「地窓」といって、室内の温度を調節するための外気取入口となる。

上側にある窓は「調査窓」といって、内部に吊るされた葉の色づきなどを観察するのに使われたとされる。

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調査窓は、建物の上部にもある。

葉タバコはここに6段になって吊られる。

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天井を見てみよう。

天井は、いわゆる化粧屋根裏で、(つまり屋根の裏側がそのまま天井になっていて、)天井や天井裏がない構造だ。

これによって、大阪式であることが再確認できた。

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調査窓は、カマドの対面の壁の上部にもあった。

左手前に写っている、竹で編まれた籠は、カイコ棚に差して使う「蚕箔(さんぱく)」というカイコの飼育台だ。

今回、ベーハ小屋の内部を丁寧にみさせてもらって、改めて、まだまだわからないことだらけだということも痛感した。

(2008年12月28日訪問)