北地広場のクランク台

タラップから滑降部への動線がクランク。

(徳島県那賀町和食郷)

徳島県鷲敷町(わじきぎょう)(現・那賀町)。そこへ至るルートは、羽ノ浦町の持井橋北詰から那賀川に沿って走る県道19号線か、阿南市の桑野町から国道195号線で峠を越えて入るかである。前者は四国霊場の20番鶴林寺→21番太龍寺の自動車用ルートであり、後者は21番太龍寺→22番平等寺の自動車用ルートだ。

前者の那賀川沿いのルートは那賀川の先行谷(せんこうこく)(河川が山脈を横断する地形)で、わずかな平地に作られた道は終始狭く、せいぜいマイクロバスまでしか通行できない。後者の国道は近年峠が付け変わってトンネルになり、カーブも少なく広々とした2車線の快適な国道である。したがって、旅行者の多くは後者の国道利用であろう。もし隘路が好きならば前者の県道19号がオススメだ。河川の「先行谷」箇所は一般的にその上流部よりも険しい風景が続くので、四国の秘境の風景を存分に楽しめる。

だが実はもうひとつ、あまりオススメできないルートがある。

それは那賀川右岸を通るルートである。県道19号線が左岸を通っているのに対し、終始右岸を通るのが県道282/283号線だ。県道19号線でも充分に狭い。だがその対岸の県道282/283号はそれに輪をかけてに狭いのだ。20km続くほとんどの区間が崖と川に挟まれた1車線の道路で、途中人家も少なく、杉林の中を走るため風景も見えず、秘境感を楽しむどころか単なる修行だ。

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きょうはあえてその細道を通り、鷲敷町へ入ってみた。

長く続いた森を抜け、大龍寺ロープウェイの架線をくぐると、和食郷(わじきごう)北地とういう集落に入る。

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大龍寺は四国霊場21番の札所である。元々は山の東斜面に本来の表参道があり、最後の駐車場から徒歩という難所だったが、このロープウェイが開通して気軽に行けるようになった。もっとも料金がかなり高いので、本当に「気軽に」といっていいのかは微妙だが。

いつか太龍寺のことも紹介したいと思う。

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今回はその麓の集落、和食郷北地の公園を紹介する。

そもそも、鷲敷町(わじきちょう)というのは合併後の名前で、旧地名は和食村(わじきむら)だった。この大字にその地名が残っている。

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公園は町内の公民館前にある。

遊具は、ジャングルジム、滑り台、ブランコ。

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そして滑り台はかなり個性的。

単式なのだが、滑降部とタラップがオフセットしていて、動線がクランク状になっているのだ。

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後ろから見たところ。これはかなり珍しいのではないかと思う。

滑降部1箇所、タラップ1箇所で構成される滑り台の動線は下図の6パターン(およびその鏡像)であろうと思われる。

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①直線型、②鈍角型、③直角型(L字型)、④鋭角型、⑤反転型(C字型)、⑥クランク型と呼ぼうかと思う。鏡像がある場合は上図のように滑降部下り方向に見てタラップの左右を表現し、「左直角型」(あるいは「左L字型」)としよう。逆は「右直角型」である。

②、④はもともと滑降部が2レーンあった滑り台の1レーンが失われたケースが想定されるが、滑り台保存館によれば、メーカーのカタログに④が掲載されているとのことである。

これまで、当サイトでは紹介した滑り台はほとんどが①直線型、ごくまれに、③直角型があった。

滑り台保存館では、見た限り①直線型、③直角型、④鋭角型、⑤反転型が確認できるが、②鈍角型、⑥クランク型は収録されていないように思われる。(見落としがあるかもしれない。)

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この台はタラップが右に寄っているので、厳密には「右クランク型」と呼ぶことになりそう。

クランク型は実はこの滑り台を発見するまでは想定していなかった型式だ。地形の制約を受ける場合を除けば、この動線になるメリットがあまり思い浮かばないからだ。それくらいこの物件はユニークな台と言える。

4本柱の滑り台は、比較的古い台やローカル鉄工所の一点モノが多いように思うが、この台もローカルなものなのかも知れない。

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というのも、同園内のブランコも、かなりやぼったい造りで、一点モノの匂いがするからである。

2018年現在、この公園と公民館は更地になってしまっている。当然、遊具はすべて失われた。貴重な型式の滑り台だっただけに惜しまれる。

(2005年10月09日訪問)