野谷の石風呂

自然の岩陰に石垣を積んで作った風呂。

(山口県山口市徳地野谷)

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野谷の石風呂は国道に看板が出ているとはいえ、ちょっと引っ込んでいるので見つけにくい場所だ。佐波川関水と同じ地域であり、どちらも重源が東大寺再建のために作った設備の跡だとされている。

石風呂は山奥で木材を切り出す人夫の疲労回復のために作られた厚生施設だった。重源を起源として語られる石風呂としては、この野谷の石風呂は立地的にも最もそれらしい遺構といえるだろう。

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構造はこれまで紹介してきた石風呂と異なり、山野にあり、岩陰の手前に石垣を築いた自然地形を利用した構造だ。私がこれまで見てきた限りでは石風呂には次の4つのパターンがある。

① 平地に土盛りをした「塚型」、② 斜面を掘って屋根を載せた「炭焼窯型」、③ 凝灰岩や砂岩のような軟質の崖に真横に穴を掘った「横穴型」、そして ④ 堆積岩などの硬質の岩の岩陰や洞窟の手前に壁を作った「自然地形型」だ。

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石風呂は瀬戸内沿岸に多く、熱した室内に海藻を敷いて薬効を期待したいわゆる藻風呂のところが多い。

だがこのように山奥の場合は海藻は容易には手に入らないだろうから、濡れたムシロを敷いただけの蒸気風呂だったろうと思われる。

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内部は狭く、同時に入れたのはせいぜい4~5人だろう。

当時は風呂の周囲には出作り小屋などがあって、風呂上がりに休憩したり、川で汗を流す人がいたり、ちょっとした作業基地のような雰囲気だったのではないか。

(2003年09月04日訪問)