口山の民家とタバコ乾燥室

穴吹町口山に残る古民家やタバコ乾燥室。

(徳島県美馬市穴吹町口山西谷)

ここまでで、口山地区に残る5軒の全タバコ農家を紹介できた。これから他の地区を見ていくが、その前に口山地区に残る元タバコ農家の民家や乾燥室(ハウス、蒸屋(むっしゃ))をまとめて紹介しよう。

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穴吹の町、穴吹中の裏手から口山へ行く道を登って行くと、だんだんと棚田がなくなり、傾斜した畑地が増えてくる。中西集会所のあたりまで来ると、視界が開けて渕名のソラの集落の風景を展望できる場所がある。

➡ 撮影場所

この場所には分かりやすい四方蓋造(しほうぶたづく)りの民家がある。徳島県に多く見られる農家の形式で、入母屋の屋根の主屋の外周に瓦葺きの庇を巡らせた造りの民家だ。この庇のことをこのあたりでは「大蓋(おぶた)」と言っている。四方蓋造りは17世紀にはあったという調査もあるようだがどうなのだろうか。江戸時代には農民が瓦屋根の主屋をおいそれと建てられなかったので、特殊な例ではないかという気がする。

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こちらは、滑り台の記事でも紹介している空き家。

ハウス形式の乾燥室は屋根が抜けて崩壊し始めている。

建物の並びの最も右にあるのは蒸屋だと思われる。形態としてはベーハ小屋に似ているが、越屋根が小さい。これは戦前まで行われていた「火干し」という火力に頼った乾燥法のための乾燥室ではないかと思われる。

➡ 場所

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火干しが葉タバコの品質を下げるため、阿波葉では火干しをやめて屋外の干し場での連干しという方法を取るようになった。

現在確認できる阿波葉の「蒸屋」は、乾燥させることが主眼ではなく、黄変という発酵工程に使うため、棟に煙出しが付いていない。

➡ 場所

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口山では純然たる寄棟造りの建物が目立つ。しかも、出し梁造りとかせがい造りというような持送り構造がなく、カヤの厚みで軒を出す造りだ。

そのため、主屋の外周の開口部、障子やサッシュよりも軒が低くなっている。これは初めて見るとかなり特異な印象を与える。

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口山の民家は本来はこうした寄棟で、後にリフォームで大蓋が付け加えられたものではないかと思う。

そう思う理由は、茅葺き屋根の葺き替えの工程を想像すると、大蓋があっては作業がやりにくいからだ。

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こちらは片面が寄棟で、裏側が大蓋になっている民家。

➡ 場所

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反対側から見たところ。

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ソラの集落にありがちな、家の前が隣家の屋根という急傾斜の立地。

それでも敷地を精一杯使って蒸屋とハウス式乾燥室を建てている。

➡ 場所

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反対側から見たところ。

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こちらは千鳥破風玄関付きの豪華な四方蓋造り。

屋根材も銅板だ。

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こちらは渕名で確認できる唯一の草屋根の建物。

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納屋のようにも見えるけれど、もしかしたら蒸屋かもしれない。

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遠目にもたくさんのハウス式乾燥室が見える。

阿波葉のピーク時には1.2万人の耕作者が生産に従事したというから、その生産施設は至る所で見つけられる。

現在、阿波葉からの転作では茶を植えている農家が多い。

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私は学生時代に狭山で茶摘みのアルバイトをしていたが、実は茶摘みは1時間で200~300kgも収穫する重労働なのだ。

この写真くらいの面積だと2人×半日で収穫できるが、水分を含んだ葉は重量もあり、農道もモノラックもない傾斜地でやるのは大変そう。

➡ 場所

(2008年06月22日訪問)