1日目の最後の行程。すでに陽も暮れかけて、そろそろ今日の宿を心配しなければならない時間となった。と言っても、季節もよいし毛布やタオルケットも積み込んできたので、のんびりと車窓の景色を楽しみながら車を走らせている。
私は、旅ではよほど焦っているときでないかぎり高速道路は使わず、従来の国道を通ることにしている。そして、さらにその国道に沿ったいわゆる“旧道"があれば、そこを通るようにする。そんなことをしているから1日に大した距離を進むこともできないが、そういう道には街道を往来した人々の息遣いが感じられて思わぬ発見をすることもあるし、たとえただ通過するだけの町であってもそこがどんなところか少しは見知りすることができるだろうと思うからだ。
そんなふうにのんびり車を走らせていると目に入ってきた看板があった。
『狐の嫁入りが似合う町・津川町』
狐の嫁入りが似合う? かの遠野市でも「座敷童が似合う町」とまでは言っていないし、狐の嫁入りっていったら超自然現象であって、似合うとかどうとかという問題じゃないと思うのだが。
でも気になって思わず立ち寄ることに。
町はこの街道筋にしては大きな町だったが、夕方だというのにひと気がなくに寂しい所だった。商店街は閉まっている店も多く、歩いていてもどこか心細くなる。私はこういううち捨てられたような気分になるのは好きだ。今回の旅でもう一度行ってみたい場所を一つだけ挙げろといわれたら、ほとんど躊躇なく津川町を挙げるだろう。それほど印象の強い町だった。
写真は、その昔狐の嫁入りが見られたという城山の稜線。
町は阿賀野川と常浪川という大きな支流の合流点にあり、川辺に発達した町である。かつては舟運やいかだ流しなどで栄えた時代があったろうと推測できる風情のある町並みが、暮れ方の山並みに溶けてゆくのは、泣きそうなくらい切ない光景である。
資料館の駐車場にあった狐の像。もう5時をまわっていて、資料館は見学できなかった。
もちろんこの日、狐の嫁入りは見られなかった。店の人など数人に聞いてみたところ、狐の嫁入りは町のイベントで、十年くらいまえからやっているとのこと。「何十年も昔は本当の狐の嫁入りが城山に出たっていうけどねぇ、私は見たとないですよ。」と語ってくれた。
(1999年08月22日訪問)