久慈市内で夕食を食べようと思ったが、これといった店が見つからなかった。地図を見ると海岸線に「小袖海女センター」という表記がある。ここらに観光客相手の食堂でもあるかと思って向かうことにした。

ところが途中まで来て、とても観光客相手の店が営業していそうな場所ではないことがわかってきた。とにかく道が狭いのだ。乗用車なら問題ないが、とても観光バスが入るような場所ではない。

波が洗うような細い道路を進むうちに、もう美味しい夕食への未練はなくなっていた。
開き直って途中船小屋のある海岸で車を停め、しばし海の景色を眺める。
夕暮れの船小屋。

しばらく走ると小袖漁港に到着するが、案の定ひと気はない。
漁港の岸壁には注連縄を渡した岩がある。岸壁の街路灯にも灯がともっている。
夕食のあてもなく、今夜の宿も定まらず、日の落ちた誰もいない港にたった独り。言葉にならない寂しさに包まれながらも、旅にきて良かったと思う一瞬である。

ところでこの小袖という漁港は、海女の港である。房総以北で海女をやっているのは小袖だけだそうだ。
浜で見かけた海女小屋。

おそら潜水具などを真水で洗うための水舟。

内部には大きなカマドがあった。
ここで海から上がった海女たちが体を暖めたり、食事をしたりするのであろう。

同じく浜で見かけた不思議な小屋。何棟もある。間口は小さく分かれていて2階建てになっている。
想像するにこれは潮待ち小屋ではなかろうか。
小袖の漁港は山が海に迫り出した地形で、平地というものがない。小袖の集落は背後の山地に人家が点々としているばかりだ。

従って小袖の漁師達は海が時化たときなど、自宅にいたのでは海の様子が分からない。そこでこの小屋に篭って潮待ちをするのではないか。2階に明けられた小窓は、海を観察するための窓ではないか。‥‥あくまで想像でしかないが。

こうして、小袖の漁港で旅の2日目は暮れていった。
本来であれば久慈の街に戻り、宿を探せばよかったのだが、次の日の最初の目的地「龍泉洞」までにはまだだいぶ距離があったので、国道を南下してみることにした。ところが国道は山と小さな漁港が交互に続くばかりの暗い道路で、飛び込みで泊まれるような旅館はついに見つからなかった。結局そのまま60~70kmを走り、宮古市で安宿を見つけて転がり込んだ。
久慈~宮古区間は何も見なかったことになり、少しもったいなかった。
(2000年10月05日訪問)