本通りを北西に歩くと、松阪邸という豪商の屋敷が公開されている。
市指定文化財で、拝観料は200円。
表通には虫籠窓を揚げた蔵造りのミセ構えになっている。虫籠窓のデザインや、入母屋の破風が唐破風になっていたり、贅をきわめたものだ。
だが、おどろくのは派手なミセ構えではなく、奥座敷の落ち着いたたたずまいだ。間取り、建具、庭木、どこを見てもスキがない。
上級武士、豪商、豪農の屋敷はけっこう見てきたが、ここまで美しい数寄屋はすぐに思い浮かばない。
座敷からながめた庭の飛び石や井戸の配置も、計算され尽くした美しさがある。
広い庭ではないが、障子を開けても、シュロチクが効果的なアイストップになっている。
座敷はジグザグに配置されていて、廊下の材質、開口部の形状も凝っている。
円窓は表から見ても、裏から見ても楽しめる。
それぞれの部屋の建具が、互い違いに続く。この屋敷を建てた大工は、こうやって戸を開け放ったときに、建具がどう見えるかを計算していたのだ。
恐ろしいほどの才能だ。
ぬれ縁は板を斜めに並べた「矢筈敷き」という敷きかた。この座敷のなかでも最も贅沢を強調しているところだ。
入るまであまり期待していなかったのだが、たいへんに目の保養になった屋敷だった。
(2002年08月28日訪問)