さっきの吉井水門の説明の中で、倉安川の下流方向の風景を紹介した。
このとき、矢印部分に気付いた人がいただろうか?
もう少し寄ってみるとこんな感じである。
そう、揚水水車群なのだ。
ここも薄々は用水水車があるのではないかとにらんだ場所だったのだが狙いは的中した。
船だまりの下流部分に4基の水輪と、1基のフレーム。船だまりの上流にも1基の水車がある。見渡す範囲で5基は確認できる。
これは船だまりの上流部分にあった水車。
船だまりの上流というのは江戸時代からの倉安川ではない。吉井川の上流に坂根可動堰が出来てから新しくできた流路である。
そのため水路の先はトンネルになっている。
1基だけ水輪が付いていないフレームがあった。使われていないのか、これから取り付けるのか。
水車が回りはじめるのは、5月20日ごろだという。
ここの揚水水車群の特徴は、構造材がすべて鉄やステンレスだということだ。つまり大工仕事ではなく、鉄工所の仕事で作られている。
鉄製の水車というと、風情がないと思われるだろう。
だが私は「実用のために作られた鉄造の水車は、観光目的で作られた茅葺きの木造水車に、風情において勝る」と感じている。
つまり農業をやる人が必要のために作ったものであれば、材質が単鉄板だろうとプラスチックや空缶であろうと、そこには農の風情があると思うのだ。
これはまだ作られたばかりの水車。今年初めて設置されたのかもしれない。
この水車の特徴は羽根板の両輪がに水筒が付いていることだ。汲み上げる量が倍になる工夫だ。もちろんその分配管は複雑になるが、現代の塩ビパイプを使えば自在にレイアウトできるので問題にはならない。
これはダブル水筒型の初期のモデルであろう。
材質が一部丸太になっているものの、全体的な設計は共通している。
比較してみると新モデルがかなりこなれてきているのは歴然だ。
鉄造の水車でもこんな風に田園に設置された姿をみれば、なかなかに時代を感じさせる風景と言えるだろう。
少しのあいだ下流まで倉安川をたどってみた。
家並を抜けたところにももう一つ水車があった。
吉井集落内に設置された揚水水車は6基ということになろう。
この水車も鉄製なのだが、水筒の取り付けに関する設計思想が他の水車と違っている。作った鉄工所が違う可能性がある。
(2003年04月28日訪問)