再びドゥラン街道へと戻る。
相変わらず未舗装のほこりっぽい道路だが、走りやすくなってきた。周辺が水田や湿地帯なので、道路は客土されてかさ上げされている。その際の土木工事でしっかりした路盤が造られているので、路面は平らでしっかり締まっている。
カレン州の航空写真を見ると、人家のない荒れ地のような場所や、雨季には水浸しになる沼のような場所でも、道路のあるところにはパッチワーク状の模様が見える。そうした人工的な地形は薪炭林、ゴム園、畑や田んぼなのだろう。
ところがラインブエ川が近くなったところに、小さな沼が点在するおむすび型の地割りが見える。これは何なのだろうか。
航空写真で見ると、200~300ヘクタールほどの面積。東京ドームが40個くらい入る面積がある。
その場所へ行ってみると湿地だった。それも湿田などではなく、手付かずの湿地帯みたいだ。
道は湿地の水面から2~3mくらいかさ上げされているから、遠くまで見通せる。
野鳥の保護区、あるいは、ラムサール条約の候補地のような自然豊かな風景だ。
立て札があった。「KNU/KNLA・PCの土地につき立入禁止 範囲は205エーカー、2007から2008年にカレン州政府から寄付された」というようなことが書いてある。
「KNU」というのは
カレン族はミャンマーの少数民族のひとつである。日本と英国がビルマ領有を巡って争ったときに、ミャンマーの最大の部族ビルマ族は日本側につき、カレン族は英国側についた。
第二次大戦終結後ビルマは独立するが、カレン族は民族の自治を求めてビルマ政府と対立。1948年に武装蜂起して、以後ミャンマーは内戦状態となる。
その戦いにおけるカレン族の中心的な政治組織が現在のKNUであり、KNUが保有する軍隊がKNLAである。
内戦は2012年に終結するが、KNU/KNLAは停戦に応じたものの武装解除したわけではなく、カレン族の軍隊は依然として存在している。「P.C」は「カレン
つまり、この湿地帯はカレン州政府によって、反政府組織であるKNUに正式に使用を許諾した土地、ということになる。
反政府組織といってもそれはミャンマー中央政府側からの見方であって、カレン州の人々から見れば、KNUは自分たちの側の組織であるから特に危険な団体という認識ではない。
このへんの政治情勢は、カレン州を一般的に観光する際にまったく気にする必要はないことなのだが、こうして田舎を訪れる際には無視できないところでもある。実際こういう看板が道ばたに立てられているのだし、たぶんきょうのこの先の訪問先の記事でも「KNU」という言葉は何度か書くことになるだろう。
それにしてもこの土地は何に使われているのだろう。居住地や軍事基地などを造れる場所とは思えない。
KNLAが演習でもする場所なのか、あるいは、単に野鳥の保護区みたいな場所なのか。
何にしろ、君子危うきに近寄らずで、さっさと通り過ぎるにこしたことはない。
(2019年03月10日訪問)