カラタゥン村を過ぎると人家が途絶え、ゴム園や荒れ地が数キロ続く。地域としてはこの先がタモセン村になるのだろう。
きょうの目標であるノゥトゥディ山脈の東を巻くという行程の最終段階へと入った。
さて、ここにきて道の様子がこれまでとは違ってくる。お気付きであろうか?
自動車のワダチがないのである。
すぐに理由がわかった。
川に橋がない。
それでも川底をよく観察すると浅瀬があり、どうやら人々はその浅瀬を渡っているようなのだった。
注意深く渡河する。
こんな川を2回渡った。実際に通行したあとで航空写真を見返せば、何となく橋がなさそうだとわかるのだが、初見ではまず気付かないだろう。
しばらくは荒れ地が続き、2つ目の川を渡ると道幅は広がりワダチが戻った。だが逆に路面は荒れるいっぽうだ。すごいところに来ちゃったな。
このあたりの村はかつて麻薬栽培が盛んだったといわれる場所。もし隠れて栽培しているケシ畑でも見ちゃったらどうなるんだろ、銃で撃たれたら一瞬熱く感じるらしいな、などと不穏な想像をしてしまう。
しかも今の心境そのもののような黒雲が前方から近づいてくるではないか。
いまは乾季なので雨ガッパは持参していない。こんなところで雨に降られたら、iPad やデジカメもろともびしょぬれだ。
黒雲から逃れるように必死に走る。
やがて路面は回復し、人里の気配が濃くなってきた。
あのパゴダが点々とある山は、以前にヤーペータンパゴダから眺めた山並みだ。国道の近くまできたのだ。
黒雲からも遠ざかるように走ったので、あたりはまた明るくなって雨の心配もなくなった。
無事に戻ってきた。
知っている場所まで来れば急に気が楽になるものだ。
道端に見馴れない構造の祠があったので寄ってみることにした。
茶堂であれば床があるはずなのだが、ここは土間のままなので人が中で休んだりする建物ではなさそう。
コンクリ製のナッ祠に木造の覆屋が付いたもののようだ。
祠の中に祀られてた謎のケモノ。
トラか?
こちらはコブラ。
もう一つの建物には、何の像も置かれていなかった。
中央のオレンジ色の模様はコウモリかな。茶色い帆掛け舟のモチーフも見える。
不気味に枝分かれした鉢植え植物や帆掛け舟の絵はラインカァ峠の祠にもあった。ラインカァ峠はここからそう遠くない場所だから同一の作者なのだろうか。それともこれらはカレン民族に共通する伝統的な画法なのか。
床にも花びらの模様があった。ヒンドゥ教徒が地面に模様を描くがそれと関係あるのか。
これは他の線画よりやや洗練されており、線で囲まれた面に薄い色が塗られている。他の線画とは別人によって描かれたのだろう。
柱にも何かが絡みついたような模様が描かれていた。
ナッ信仰については、もっと色々知りたものだ。
これでノゥトゥディ山脈を巻く小旅行は完了。途中荒れた道が多く、道のりはとても長く感じられ、これまでになく不安を覚えた。
ところがその後この近くまで何度か来るようになり、カレン州のほかの田舎もたくさん訪れたあとでは、ここは大して遠くもなく、不安になるような風景でもなくなってしまったのだった。
結局、初めてこの道を通ったときの心細さは、もう二度と体験できない貴重な記憶なのである。
(2014年11月08日訪問)