ラッサン村を過ぎると人家が途絶え、ゴム園や荒れ地が数キロ続く。地域としてはこの先がセリニャン村になるのだろう。
きょうの目標であるノゥトゥディ山脈の東を巻くという行程の最終段階へと入った。
さて、ここにきて道の様子がこれまでとは違ってくる。お気付きであろうか?
自動車のワダチがないのである。
橋脚の残骸はあるけれど、自動車が渡れるような造りには見えない。
歩行者専用の橋がたまたま水害で流された後なのか。
それでもよく観察すると川底に踏み跡があり、どうやら人々はその浅瀬を渡っているようなのだった。
注意深く渡河する。
川を渡るとすぐ、一軒のゴム農家があった。
ご主人らしき人が出てきたので畑の写真を撮らせてもらう。
もちろん言葉は通じないから、身振り手振りだけど。
そもそも彼がビルマ語の話者なのかすらわからない。田舎にはカレン語しか話さない人たちも多いのだ。
規則正しくゴムが植えられている。
カレン州の衛星写真で筋状に見える森はだいたいがゴム林なのだろう。
畑の周囲には明渠が掘ってある。
水を嫌う植物なのか。
現在、生ゴムの山地は東南アジアだが、ゴムノキの 原産地は南アメリカであり、もともとこのあたりにはなかった植物なのだ。
ゴムの樹の樹皮を螺旋状にはいで樹液を集める。
樹液を採種すると寿命は30年くらいというが、この樹はまだ若い。
樹液はこのように小さな金具の樋を伝って容器に集められる。
牛乳みたいな白い液体で、早朝に収穫できるという。
樹液を濾して不純物を取り除いたあと、酸を加えて硬化させ、伸して干してある。
ここまでを農家でやって出荷しているのだ。
ゴム農家に別れをつげ、頼りない道を進む。
2本目の川を過ぎると、両側に家がぽつぽつと並ぶようになってきた。
セリニャン村の家々。
木と葉だけで出来た家もある。
だが逆に路面はまだ油断ならない。すごいところに来ちゃったな。
このあたりの村はかつて麻薬栽培が盛んだったといわれる場所。
遠目に花が咲いている畑を見ると、身構えてしまう。
観光客が行ってはいけない場所に迷い込んで、隠れて栽培しているケシ畑でも見ちゃったらどうなるんだろ、銃で撃たれたら一瞬熱く感じるらしいな、などと不穏な想像をしてしまう。
しかも今の心境そのもののような黒雲が近づいてくるではないか。
いまは乾期なので雨具は持ってきていない。いそいでこの場所を離れよう。
(2014年11月08日訪問)