島根県の県庁所在地である松江市は日本海に近い都市だが、海岸に面しているわけではない。松江市の北側には標高が200mくらいある島根半島が横たわっており、山脈によって海からは隔てられている。
島根半島の北面、つまり、日本海の海岸線は、元々は山の斜面だったところが海面の上昇で海岸線になった地形である。これを沈水海岸という。半島の東半分はいわゆるリアス式海岸で深い入江の奥に漁港が形成された地形。昨夜訪れた桂島海岸もリアス式の地形になる。これに対して半島の西半分は直線的な山体が海に落ち込んだ地形になっている。急斜面からそのまま水深が深くなっているため海岸に平地がなく、漁村でありながら山村のような急傾斜の集落が形成されている。
私が住んでいた四国にも蒲生田岬や佐多岬の南岸に似たような地形がある。道路は山脈の尾根を通っていて、集落へは山を下ることでしかたどり着けない。隣りの集落へ行くにも海岸線を通ることができないという、いわば陸の孤島のような場所である。
だが、四国の急傾斜漁村に比べても、この島根半島北岸の漁村の地形は特徴的で一軒の価値がある。特に、宍道湖の北あたりの海岸線は極まっているように思われる。
一畑薬師から峠を越えて、その漁村のひとつ、
集落へ入る車道である県道232号線を降りて行く。家々は急斜面に張り付くように並んでいる。山村だと家がまばらに建てられるが、ここでは1戸1戸が密着していて庭のある家はまったく見つからない。建物を密着させるのは漁村の特徴ともいえる。
空間を極限まで使うために、3階になっている家も目立つ。高潮対策にもなっているのだろう。
港から山の上まで続く階段があった。
山の上を通る県道23号線まで、最短距離で登るバックアップ用の経路なのだろう。階段の上にはバス停のような建物があるので、かつてはここを登って通学した子どもがいたのだろう。あるいは、いまもいるのか。
津波の際の避難路としても機能していそう。
雨が強くなってきたので集落を車でひと回りして、少しだけ車窓から町並みを眺めた。
こんなフォトジェニックな階段もある。
島根半島にはこうした漁村は小伊津だけではなく、いくつもある。いつか時間があればひとつひとつ訪ねてみたいものだ。
(2005年05月01日訪問)