旅の一日目の午後は、一宮、稲沢付近の社寺を中心に見て、それから西にある祖父江町の方へ向かうつもりだったが、予定を変更して先に祖父江町に向かうことにした。あまり時間が遅くなると“あるもの"が見学できなくなるかもしれないと思ったからだ。
その“あるもの"とは善光寺の戒壇巡り。戒壇巡りとは、本堂の内陣の床下に真っ暗な通路を作り、そこを手探りで進むというすばらしい信仰装置なのだ。あらかじめ祖父江町の善光寺に戒壇巡りがあるという情報を持っていたわけではなかったが、本堂の外観の写真を見て「ここにはアル。」とにらんでいた。
戒壇巡りはもとは長野善光寺に作られたものだが、善光寺の子院のうち、本堂の外観が長野善光寺を模している場合、内部の戒壇巡りも再現されていることが多いのだ
善光寺は祖父江町の表通りからは見えない引っ込んだ場所にあり、すぐには見つけられなかった。派出所で道を尋ね、何とか3時半ごろには善光寺に到着。よほどの寺でなければ16時前に行けば拝観はできるはずだ。
本堂は写真のように長野善光寺のレプリカといった様子。期待が高まる。
内部には案の定、戒壇巡りがあった。
本堂の入り口に護符などを売るコーナーがあり、そこで300円の拝観料を払う。ただあまり参拝客は多くないらしく、お寺の人は常駐していない。インターフォンで呼ぶと近くにある庫裏からやって来てくれた。
戒壇への入口は本堂内の内陣の畳敷きの場所に唐突に開いている。
このありようの突拍子のなさにますます期待が高まってしまう。地下に降りる階段は手すりで仕切られていて、右回りに通路を進んでゆく。
真っ暗な通路を手探りで進んでいくと、角をいくつか曲がったところで薄明かりが見えてくる。
普通の戒壇巡りで金剛杵が取り付けてあるような場所に明かりがともっているのだ。(普通の戒壇巡りなら真っ暗な場所である。)
そこにあったのは、小さな仏像を並べた立体的な曼陀羅。極楽のジオラマとでも言えばいいのだろうか。
御簾の奥にあるため、写真ではよく見えないのだが、大日如来を中心としてさまざまな仏、仏塔、太鼓橋などが立体的に配置され、赤や緑のライティングに目もくらむばかりだ。
お寺の奥さんが案内しながら「うちの戒壇巡りは長野善光寺さんより立派です」と説明していたが、まんざらでもないと思う。戒壇巡りファン必見の寺といえるだろう。
(2000年03月18日訪問)