美濃市は
美濃市に着いたのは5時をまわった時間だった。町はもう夕げの支度をいそぐ慌ただしさにつつまれていた。
左側を歩いているのは観光客。右側を歩いているのは“町の人"である。この町、いつもこんなんだろうか?
着いたのがもう観光客が引ける時刻だったので昼間の町のにぎわいは想像できないが、この時間町全体で観光客は20~30人くらいだった。
卯建を上げた商家、平田家(中央)、古川家(右手前)である。
“うだつ"については、本来は「梲」もしくは「棁」の字があるが、これらの文字は古いパソコンで表示できない可能性もあるので、代わりに「卯建」という表記を使うことにする。
卯建とは商家や街道筋の旅籠などに見られる屋根部分の飾りで、屋根や棟よりも高く上げられた小屋根つきの袖壁を言う。防火の目的があるというが、富を象徴する装飾という側面の方が強いであろう。「うだつがあがらない」という言葉はここから来ている。
卯建は中国の民家にも見られ、起源は大陸にあるのかもしれない。
写真は藤井家(?)、伊藤家(?)。
美濃市の主要な商家の卯建は本式のものだが、それ以外に中部地方の街道筋などには、卯建をまねた“袖うだつ"という軒の飾りがある。(袖卯建については、以前に羽島市竹鼻町のページで説明した。)
今井家住宅。
市が管理していて、庭園、資料館などがあり見学できるという。
ただしもう時間が遅かったため閉まっていた。
本式な卯建を持つ商家は20軒ほど。それ以外の風景は左のような感じだ。略式の袖卯建であるが、町並みとしては十分な見ごたえがある。
電柱もあり、道路に引かれた白線や道路工事の跡も普通の町とあまり変わらず、重要伝統的建築物群保存地区にありがちなグロテスクな修景も少なく、気の置けない町であった。
古い町並みは「目」の字の形の町内で、一回りは30分くらいかかる。写真は「目」の字の間のハシゴ状の部分の路地。
なななかにいい雰囲気だ。
町内で見かけた馬つなぎ石。
その後ろはクーラーの室外機。こういう現代の生活に必要な機材や建物を昔風の外見で作ることを「修景(しゅうけい)」と言う。
修景は近年よく行われるようになった。私も学生のころはこういうものを見つけて喜んでいたのだが、最近はどうもこういう修景は不自然に感じている。江戸時代にはクーラーはなかったわけで、これはクーラーという機器の本来の姿ではない。つまりいつの時代の光景でもないのだ。
別に、町並みを美しいまま残そうという発想が悪いとまでは言えないのだが、イメージが先行するあまり、どの時代にも存在しなかったようなものを新しく作りだす必要があるのだろうか。クーラーの室外機は昭和の日本を正しく語ることのできるアイテムだが、この室外機の覆いは何も語ることはできない。そんなもどかしさを最近感じてしまっている。
(2000年04月30日訪問)