水車小屋幻想

午後の眠さの中で見た白日夢。

(岐阜県高山市丹生川町大萱)

千光寺をあとにして丹生川村を走っているとき、ふと道路のわきにあった小屋が目に留まった。「もしかして、水車小屋では?」 そんなことを思ったのは、前日に郡上八幡で観光唐臼を見たり、午前中に土産物屋のからくり水車を見たせいで、潜在的にもっとちゃんとした水車を見たいという気持ちがあったからなのかもしれない。だが、このとき眠さは最高潮に達していて、車を降りて確認するエネルギーすらなかった。しかたないので車窓からパチリ。

ところで、一般の人が思い浮かべる水車小屋のある風景というのは、結婚式場の日本庭園とか黒沢明の映画「夢」にでてくる村の光景ではないだろうか。だが、そういうものを探しているかぎり水車小屋を発見するのはむずかしい。そこで私なりの水車小屋の見つけ方を書いてみたいと思う。

まず第1に、平野部では水車小屋は田んぼの中にポツンとあることはなく、たいていは集落に付随して建てられている。水車小屋は数軒の農家が共同で所有している場合が多く、必ず所有者が近くに住んでいる。よって、見渡してみて近くに人家がない場合は、それらしい風情の小屋があってもただの農作業小屋かポンプ小屋である場合が多い。(山間部では人家のそばに沢がない場合は、集落から数百m以上離れた場所に水車小屋だけが建てられる場合もある。)

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第2に、黒沢の映画のように水量豊かな小川に水輪をひたしたまま常に稼働している水車などまずない。あのような水車の方式を「下掛け」というが、実は下掛けの水車はかなり珍しい。自然の川は雨などで増水するから壊れてしまう。

多くの水車は必要なときだけ川から取水して動かすようにしている。利用する水はわずかでよいので、必ずしも田園牧歌的な小川をイメージする必要はない。どちらかといえば道路きわの側溝くらいの川でいいのだ。

第3に、これがとても重要なのだが、水輪を捜していてはだめ。水車小屋のシンボルとも言える水輪(みずわ)、これを目標に捜していたのではなかなか見つからない。水輪のない水車小屋を捜すのが、実は水車小屋発見の最大のポイントといってもいいのだ。

もともと水輪は水に濡れるから腐りやすく定期的に修繕しなければならない。水輪が傷んだのでそのまま撤去されている水車小屋は多い。そこで周囲の状況を見て取水、導水、排水が可能かどうか、そして、壁に水輪を取り付けていた穴が空いていないか、といった点をチェックするのだ。

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さて、以上の観点からこの小屋)を見てみよう。

まず、人家からの距離は近い。取水については左側の水路が規模的には充分である。Ⓐに不審な礎石があり、Ⓐ部分から取水が可能と思われる。また、斜面なので床面からの高さは不明だがⒷ部分には壁に穴が空いている。Ⓒの部分からもみ殻があふれ出ている、といったところからこの小屋を怪しいと睨んだわけである。

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想像図としては左のような感じだ。

導水樋や水輪は必ずしも木製でなくてもよく、鉄、トタンなどの素材で作られていたことも想定しなければならない。

‥‥とまあ、想像を膨らませてみたわけだが、実際のところはたぶん水車小屋ではないだろう。午後の眠気の中で見た白日夢の話と思ってお許し願いたい。

(2000年05月02日訪問)

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