石応寺(しゃくおうじ)と読む。釜石市の中心部、港から伸びる中央分離帯のあるメインストリートの突き当たり、絶好の場所にある禅寺だ。釜石大観音を立てたのはこの寺である。
山門は竜宮門だ。下部の亀腹が石積みになっているのが珍しい。二階の花頭窓、屋根の鵄尾(?)、千鳥破風に唐破風の組みあわせ‥‥寺院的な意匠を全て注ぎ込んだ門で、見ているとなんだかげっぷが出てきそうだ。
本堂までは石畳が続いている。
参道の途中の右側には宝塔と鐘堂がある。
宝塔は初出なので簡単に説明する。形式的には牛乳瓶のように上部がすぼまった円柱状(まれに四角柱)の本体の上に2階を載せた珍しい塔である。特に木造の塔は国内に2~3しかなく、ほとんどはこのようなRC造だ。RC造の宝塔を含めても数の上では多宝塔のほうが圧倒的に多い。
古例が少ないからか、宝塔の発生についてもはっきりした定説はないようだ。形態が多宝塔と似ていることから宝塔に裳階がついたものが多宝塔だという説もあるようだが、私はその逆だと思っている。曼陀羅を三次元化する建築として多宝塔が生まれ、その多宝塔から連想されて生まれたのが宝塔ではないかと思うのだ。
内部には黄金の観音像がある。色ガラスのはめ殺し窓から差し込む七色の光が、観音や天蓋に反射して強烈な異国情緒を放っている。
本堂。
本堂の前には大きめのまわり場がある。お寺の奥さんに話を聞いたが、今でも使われることがあるそうだ。ただし、呼び名はわからないという。
本堂の左側には位牌堂。
位牌堂の内部にも小さな堂があり、黄金の地蔵菩薩、観音菩薩が祀られている。
庫裏は2階建て。
2階の円窓にともった明かりから、周囲がかなり暗くなっていることがわかるだろう。時刻は5時に近くなっている。
どうやら今日の訪問地はここが最後になりそうだ。
このあと、釜石市内をうろうろして地の魚を食べさせてくれそうな店を探したが、商店街は閉まっている所が多く、値ごろな感じの料理屋が見つからなかった。
結局、町はずれにあったあまりやる気のなさそうな海鮮料理店に入った。食事が出てくるまで地図を眺めながら今夜の宿泊地を検討する。明日は少し内陸に入った滝観洞という鍾乳洞を見る予定だ。それであればさらにもう少し内陸の遠野に泊まって、半日くらい遠野を観光するのもいい。
かつて牛方が山姥に遭遇した場所もかくやと思えるような暗い国道を西進すること50km。遠野駅についたのは夜8時ごろになっていた。駅から民宿に無理やり予約を入れ、それから立ち寄り温泉で疲れをいやし、宿に転がり込んだころには9時になっていた。(8時に予約を入れ、9時に転がり込んでくる客が歓迎されるはずはなく、常連客のとりなしでかろうじて宿泊できたことを付け加えておかなければならないだろう。)
(2000年10月06日訪問)