実相寺

県文の仏殿。広大な境内に無意味に松が生えている。

(愛知県西尾市上町下屋敷)

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実相寺。仏殿があるということなので、西尾市ではこの寺は見逃すわけにはいかない。全盛期には 40 ヶ寺の塔頭を擁したという伝説もある臨済宗の名刹だ。もっとも、今は1寺の塔頭もない。 40 ヶ寺もどこまで信じていいものやら。

参道はクロマツが生い茂っているが、近所の駐車スペースとなっていて、まるで新芽に群がるアブラムシのごとく、びっしりと車が停めてありせっかくの参道の景観も台無しだ。

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参道を進むと左右には背の低い松が所狭しと植えられている。なにゆえここまで密植しなければならないのか。人が通る場所にまで枝が伸びてきていて歩きにくいし、視界も悪い。

この寺も伊勢湾台風で被害を受けたらしいのだが、防風林として植えているのだろうか‥‥。

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これが仏殿。

仏殿というのは、禅宗の寺において本尊を祀るだけの機能に特化した仏堂のことである。ほとんどの寺院では、本尊を祀る場所と法要を行う場所は内陣/外陣という空間に分割されているものの、ひとつの仏堂の中に混在している。そのような構造の堂は仏殿とは言わず「本堂」と呼ぶ。

禅宗の寺の99%以上は本堂を中心とした伽藍を形成していて、仏殿がある寺は禅寺のなかでもエリート的な存在と言えるのだ。

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本堂と比較したとき、仏殿の最も顕著な特徴は床がないことである。仏殿の内部は左写真のような土間になっていて、磚(セン)という瓦が 45 度の角度で敷き詰めてある。このような敷き方を「四半敷:しはんじき」と言う。

内部には釈迦三尊仏とその左右に四天王が見える。伊勢湾台風の被害でこの三尊仏の首が取れたということだから、仏殿にも相当被害が出たのだろう。堂全体にかなり修理の跡が見られる。

仏殿の外観には唐様があまり使われておらず質素な作りと言える。屋根はこけら葺きだが厚みも反りも物足りない感じだ。唐様の濃い仏殿はほとんどが国重文に指定されているのだが、この仏殿は県文。しかたがないところであろう。

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仏殿の背後には中門(左写真)があり、その先に本坊がある。

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本坊の中心伽藍、方丈。

ものの本では、禅宗の伽藍は仏殿→法堂という配列だと書かれているが、こじつけでもこれを法堂とは言いにくい。はやり方丈である。

ここにも変なところに松が生えている。境内は広大なのだが、この方丈の左側のように締まりが無い感じだ。そしてもう一つ、(この日だけだったのかもしれないが、)境内には酢のような匂いが漂っていた。

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庫裏。

庫裏の前には堂の跡のようなものがあり、礎石が残っていた。

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切妻の鐘堂。

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仏殿の左側には、堀で囲まれた場所があり、地蔵尊などが祀られている。館跡かも知れない。小さな地蔵堂が4つあった。

(2001年11月24日訪問)