中之院を後にして、高速道を使って常滑市へと向かった。南知多から常滑までの道のりは、ついこのあいだ通ったばかりだったので、時間の節約である。
さて、国道247号を常滑市の南から北上していくと、市内に入る手前で市街地を抜ける旧道と、郊外のバイパスに分岐している。そこで旧道のほうへ入ったすぐの場所に船の形をした住宅がある。
船首にはイカリが取り付けられているという本格的な船型住居だ。
その姿はあたかも宮崎駿の童話『シュナの旅』に登場する“船出できなかった箱船"を彷彿させる。宮崎はこの住宅を知らないだろうから、童話に登場するビジュアルは氏のオリジナルなのだろうが、この荒れ具合といい、石でできた船という理不尽さといい、どうしても『シュナの旅』の場面を思い出さずにはいられない建築物なのである。
舷側はシャッターになっていて、どうやら家業は鉄工所かなにかのようである。
船尾からみるとあまり船らしくはないが、異様に細かくにフロアが分かれていて、無駄に階段があるところは、本当の軍艦の艦橋のようだ。
建物というのはある程度は効率的に空間を使うべきなのだろうが、それを極めていくと倉庫かカイコ棚みたいなアパートになってしまう。この非効率な建て増し感は、非効率なゆえに人間的だといえるだろう。
軍艦で言えばキャットウォークのような、狭いベランダが幾重にも付いているのがいい。
屋上にはマストがあって、レーダーか測距儀のようなデザインも施されている。
船首部分にはタラップがあって、直接2階に登れるようになっているのだが、このタラップはもしかしたら上げ下げできる構造になっていたのではないだろうか。
階段が上げ下げできる建築などというものはそうそうお目にかかれるものではない。
(以前に埼玉県新河岸川の船問屋の母屋で、台所の二階にある女中部屋に上がる階段が上げ下げできる構造になっていたのを見たことがあるが。)
船型建築というと、徳島県東部、国道55線沿いに多いように思う。
現代建築にはあまり関心がない私なのだが、なくなるまえに写真を撮っておこうか。
(2002年02月10日訪問)