稚蚕共同飼育所巡り4日目。この日は前橋市の東部の平坦な地域を主にチェックした。
最初に訪れたのは、東上野稚蚕共同飼育所。
現在は家具工場になっている。
構造はおそらく軽量鉄骨造。小屋組みも軽量鉄骨で、トタン板葺き。
高窓がないことから、小部屋方式ではなく、大部屋のセントラルヒーティング方式であろう。
セントラルヒーティング方式が導入されるようになった以降の飼育所は、見ていて面白みがない。土室式、電床式の飼育所は、建築物としての創意工夫の結晶といえるものであったが、セントラルヒーティング方式が成立すると飼育室に工夫はなくなり、単に機械装置を格納するというだけの構造へと変化してしまうからだ。
大部屋を電力だけで気温を制御する技術が確立し、推奨されるようになるのは昭和40年以降である。
それ以降の稚蚕飼育技術は、蚕座をベルトコンベアのごとく機械制御する手法の研究と、桑を使わずに蚕を育てる方法の研究へと進んでいく。それは、メカトロニクスとバイオテクノロジーの領域であり、私としてはあまり興味をそそられない分野である。
と同時に、機械化は人間とカイコが生きものとして対峙する伝統的な農業から、まるで工場のような養蚕へと変容していくことも意味している。
私自身は農業にはまったく携わったことがなく、部外者という立場でしか語ることはできないが、農業に工業の論理を持ち込むことはいいこととは思えないのである。最近の農業の荒廃を憂えて、より農業を大規模化し、企業の論理で経営すべしという意見がまかり通っているが、そんなことをしても、多様性のない農産物がより安く供給されるだけではないか。その代償として、生態系はいままで以上に疲弊し、人の心を癒す美しい農村風景は失われるだろう。
真冬に100円のトマトを食べられることが豊かな生活なのではない。人の労働の価値が正しく評価され、生命や環境が大切にされる世の中こそが本当に豊かな世の中なのだ。もういい加減に気付いてほしいものだと思う。
(2007年02月13日訪問)