以前に榛東に住むTさんという方から、箕郷に大きな稚蚕飼育所があるという情報をもらっていた。送ってもらった写真からも、赤城南面でみた飼育所のどのタイプとも異なることが見て取れた。
その飼育所がここ、新屋敷稚蚕共同飼育所だ。
管理室は二階建てで、単なる飼育員の休憩だけでなく、事務処理なども行なえるようだった。
地域の共同飼育所というよりは、養蚕組合が運営した大規模な飼育所だったのかもしれない。
東側には窓が連なっているが、内部は直接飼育室ではなく、廊下がある。つまり飼育室は窓がない空間なのだ。
西側には窓がなく壁のように見えるが、この壁の内側にも廊下のような狭い空間がある。つまり飼育室は外周を廊下に囲まれたようになっていて、外壁とは直接接していない。
あまりにも異質なので、これが本当に稚蚕飼育所なのか、すぐには判断できなかった。
もしこれが新しい建物なら、後期の大部屋方式の稚蚕飼育所の一形態と断じることができるが、どうやら年代的には古そうなのだ。
西側にあるトイレと物置(?)。
トイレが外部にあるということからして、この施設は比較的古いものではないかと想像できる。昭和40年代の後半に大部屋方式の飼育所が普及したころには、こうした設計はしないからだ。
古いと思わせる理由は、もうひとつには屋根が瓦葺きだったり、建具などの様子を見る限り、安普請という感じがしないことだ。まだ海外とのコスト競走が始まらず、養蚕が産業としてイケイケだったころのはつらつさというかおおらかさが感じられるのだ。
東側には大きな消毒槽がある。これまでに見たことのないスケールだ。
東側の木陰に貯桑室への搬入口がああった。
やはりこれは間違いなく稚蚕飼育所なのだ。
内部を少しだけのぞかせてもらった。
東側の廊下部分。
通路の左側が飼育室になっている。
途中にある穴はたぶん貯桑室につながっているのだと思うが、リフトなどを取り付けた穴とも思えず、しかも内部はダストシュートのように斜路になっている。何かを投げ落とす穴としか思えず、用途が想像できない。
このように、外周に廊下を持った古い稚蚕飼育所を実は群馬県以外で見たことがある。まだ件数を見ていないので、現段階ではなにも断定はできないが、こうした形式が普遍的にありそうなのはおぼろげにわかってきている。
西側の通路の内部。左側が飼育室。
エアコンのダクトがあり、どうやら地下につながっているようだ。なぜこれほど複雑な設計になっているのかは謎。実験的な施設だったのか。
飼育室の内部。
窓がなく全くの密閉空間だ。奥に見える小窓は換気口だろうか。天井にもダクトがはっているが、これがもともとこの建物の設備なのかはわからない。
稚蚕飼育所としての役目を終えたあと、茸の菌床栽培にも使われていたようだ。
屋根付きの消毒槽らしきもの。なぜ屋根? これはそもそも飼育所の付属施設なのか? 謎は深まるばかりだ。
できたらここで働いていた人にインタビューして設備についても詳しく知りたいと思う。
現時点では、この物件は群馬県の稚蚕共同飼育の進化の歴史のなかで、どの段階にも位置づけることはできないように思う。
とはいえ、この飼育所の形態はまったくの突然変異ではないという予感はある。その予感が形になるには群馬県以外の地域の稚蚕飼育所の調査を待たなければならないだろう。
(2007年05月03日訪問)