
中室田の打越という小字にあった飼育所。
側面に窓がなく、大棟にベンチレータを載せているという、いままでに見たことがないタイプの飼育所だ。
窓がないというのは気密性を高める意味があり、大部屋タイプの飼育所には見られる構造なのだが、大部屋型では密閉した室内を加温するため、天井のある四角い部屋になっている。そのため、大棟に換気口を付けても室内の換気はできないはずだ。

大棟に換気口があるということは、天井がなく室内から屋根までが吹き抜けていると考えられるので、大部屋方式ではないのだろう。
自然採光もなく、自然換気もない、ブロック電床育方式の飼育場なのだろうか。別にカイコの飼育には光は必要ないので、この構造もアリだとは思うが。

配蚕口の右側には消毒槽。

右奥には宿直室への入口と思われる扉。
その横の壁には、長押がむき出しで残されていた。
ここに更衣室があったのだろうか。はっきりとはわからない。

配蚕口から宿直室まではモルタルのタタキが続いていて、土の上を歩かずに移動できるようになっていた。
また、途中には壁をふさいだような跡があった。貯桑場への搬入口だったのか。
全体的に謎の多い稚蚕飼育所だ。

ところで、この打越という字は、コナラやアカマツの森の間に棚田や農家が続く美しい里山だ。
赤城南麓やこれまで見てきた農村の風景のなかでも、ずばぬけてなごやかな場所だと思う。こういう場所で生まれ、育ち、死んでいけるとしたら、それは今の日本で考えられる最高の幸せなのではないか、そんなことを思わせる村だった。
(2007年05月05日訪問)