碓氷川南岸の段丘上に大きな養蚕施設の遺構がある。小竹協業養蚕組合の施設群だ。
組合には11戸の農家が参加し、10ヘクタールの桑園を所有していたという。
ぱっとみて、建物がある敷地だけで50アールくらいはありそう。予備知識なしにここを通りかかったら、畜産関連の施設だと思ってしまうだろう。
これまでに群馬県内で見てきた現存する養蚕施設のなかでは最大のものだ。
入口付近にある黄色いモルタルの建物は、事務所や宿直室と思われる。建物の奥は、稚蚕飼育室になっている。
トイレは外側にある。これまで見てきた稚蚕共同飼育所ではトイレが外側にあるのは古い時代の特徴だったが、ここでは他の建物で仕事をしている作業者が利用しやすいようにしたのだろう。
建物の横には、
事務所の横の稚蚕飼育室。
北側に屋根の低いところがあり、ここはたぶん貯桑室になっているのではないだろうか。
碓氷地方でみてきた稚蚕飼育所では、地下ではなくて、このように地上に貯桑室があるものがいくつかあった。確かに地下は涼しくて桑葉の鮮度を保つ上では最適だが、出し入れや清掃などが不便だし、桑も何日も入れておくわけではない。冷静に考えると地下室は過剰品質なのかもしれない。
内部はブロック電床育の室が片側6室の全12室。ひとつの室には、30枚の蚕箔が入るので、フル稼働すれば360枚の蚕箔が使える。稚蚕の取り扱い単位の「箱」は、1箱=蚕箔1枚なので、この施設で360箱の稚蚕が生産できることになる。
1箱の蚕を終齢まで育てるのに必要な桑園の面積は(年に何回飼育するかによって単純計算はできないが)、約0.06ヘクタール/箱くらいだと思う。360箱なら約22ヘクタール必要だから、この組合が10ヘクタールの桑園を持っていたとすると、フル稼働はしていなかったかもしれない。
稚蚕飼育棟の東側にある、やや背の高い建物は、おそらく壮蚕の飼育室だと思う。
外見からして、水平移動型飼育装置(信光式)と思われる。左右2棟の建物に多段式の長い蚕座があり、動力で蚕座が左右の棟を往復する。作業者は中央の屋根が高くなったところにいて歩かずに給桑できるという仕組みのものだ。左右の棟で蚕座の高さは互い違いになるようにずらしてあって、ぶつかり合うことがないようになっていた。
稚蚕飼育室の北側にある、背の低い建物は、おそらく上蔟室だと思う。
上蔟は機械化がむずかしい工程で、敷地内にころがっていた簇の構造から見ても、一般の農家の上蔟と大差ない方法だったろうと思う。
(2008年05月03日訪問)