コーナッ寺院

モン建築の粋を凝らした伽藍。まさにカレンの日光。

(ミャンマーモン州モーラミャイン)

パヤピュー僧院の船着き場からサルウィン川を4kmほどさかのぼったところにあるコーナッ村。ここはもうカレン州との境界である。

もちろんあの危なっかしい渡船にオートバイを積んで遡上してきたわけではない。ジャイン・ザタピン橋経由で12kmほどの陸路を迂回してきたのである。

ここは前回のパアン滞在の最後の日に目指した村である。つまりここはパアンからサルウィン川の東岸を延々と南下した行き止まりの場所。結局あの日の行程は壮絶な悪路と、橋の架かっていない川に阻まれてこの村にたどり着くことはできなかった。今回はモン州側からの帰路でこの村に入り、ここからサルウィン川の東岸を北上するのだ。

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この村は、単に通過するだけのつもりで来たのだが、大きな層塔屋根が見えたので、お寺に立ち寄ることにした。

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山門はわりと豪華だ。

タジャーミンなどの装飾があるので参拝ウエルカムなようでありながら、中央の装飾は赤い逆さ懸魚で地味な僧院のようでもある。

でも遠目にも見える巨大な建物は充分に参詣に値しそうだ。

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この寺には珍しく伽藍配置図(しかも英語つき)があったのでそれに沿って説明していこう。⑭から境内に入り、右上方向に建物を見ていく。

① The Theingyi ordination building. テインジー得度堂
② The Hna-kyeik-Shit-Su shrine. ナッセェシッス堂
③ The Dipinkara shrine. ディピンカラ堂
④ The Kawhnat Taik-Kyaung monastery. コーナッ・タイッチャウン僧房
⑤ The Mahamuni shrine. マハムニ堂
⑥ The Sinswe shrine. シンスェ堂
⑦ The Mahacede pagoda. マハシードパゴダ
⑧ The Sutaungpyay pagoda. スタウンピィパゴダ
⑨ The Sutaungpyay shrine. スタウンピィ堂
⑩ The Thihoe shrine. ティーホエ堂
⑪ The Layhtat paya shrine. レイタッ講堂
⑫ U Nar Auk's statue. ウーナーアーク像
⑬ The West entrance. 西門
⑭ The South entrance. 南門
⑮ The East entrance. 東門
⑯ U Mon zayat. ウーモン庵
⑰ U Kun Zayat. ウークン庵
⑱ Bo. Kyaung monastery ボーチャウン僧房

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⑭の南門を入ると回廊が続いている。

周囲はヤシの木などが繁茂しており、お寺の伽藍の全容はわかりにくい。

はじめに右のほうへ進んで、④僧房へ行ってみよう。

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僧房は典型的なモン様式建築。

多層切上屋根と額縁みたいな小壁の紋様がその特徴である。

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また僧房の間取りの外に階段があって、直接二階へ入るようになっているのも、モン様式の僧房の特徴だ。

牢屋のような扉が閉じているので中の様子は伺い知れない。いつか中に入ってみたいなあ。

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この種の二階建て僧房では、階下が吹き放ちになっていることが多いが、ここでは一階にも部屋があり、講堂のようになっていた。

ステンドグラスとアーチ、古典様式の柱のせいでここだけ見ていると何の宗教なのかわからない。

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僧房を別の角度から見たところ。

こちらが正面になるのかな。

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僧房の北側には見慣れない意匠の建物がある。古典風の円柱と陸屋根の縦横のデザインで構成されている。インド風といえばいいかもしれない。

伽藍配置図によれば⑤マハムニ堂となっている。日本語で端的にいうならば「釈迦堂」である。

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入口には壮絶な唐草模様の透かし装飾がある。このへんも仏教というよりイスラムっぽい。

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建物に入ると、手前の1間は吹き放ちになっている。日本の密教の本堂建築の外陣内陣のような造りだ。

天井はモン建築特有の折上天井。

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内陣のマハムニ仏。

気になるのが四天柱の装飾だ。あまり見かけない唐草模様。まさか文字じゃないよね?

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続いて②の建物、ナッセェシッス堂へと入ってみよう。

このお堂は拝殿/本殿形式になっていて、手前側の層塔を載せた部分が拝殿、奥側の多層切上屋根の部分が本殿である。

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本殿部分を後ろから見たところ。

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お堂の内部に入ってみる。

拝殿部分は周囲に下屋(げや)というか裳階(もこし)のような、回廊があってそこは斜めの天井が貼られている。

欄間にはびっしりと説話彫刻が並ぶ。

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説話彫刻はどれも大人数が彫られているのがこのお堂の特徴だ。

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この拝殿部分の天井。

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続いて本殿のほうへ入っていく。

大小たくさんの仏陀が並んでいる。正確に数えたわけではないが過去二十八仏か。

そういえばこのお堂の名前「ナッセェシッ」はミャンマー語の「二十八」じゃないか? ほとんど言語が通じないながらこれまでこの種のお堂を「過去二十八仏堂」と呼んできたのは、ずばり正解だったのだ。

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二十八仏の手前に供えられているのはこれまであまり見かけたことがない、花で出来た盾。

さっきのマハムニ堂にもあった。

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本殿の天井は、これまで見てきた折上天井よりもさらに複雑さを極めた意匠。

日本でも格式の高い部屋に「折上格天井(おりあげごうてんじょう)」というのが用いられるが、これもまさに格天井であり、日本人の感覚からしても「これは拝殿よりさらに格式が上の意匠なのだな」というのが理解できる。

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つづいて③のディピンカラ堂へ。

このお堂は拝殿/本殿にわかれておらず、単独の正方形平面のお堂である。

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その屋根は、逓減する層塔の形式。

こういう屋根の意匠はミャンマーの広範の寺院や、王城の一部にも見られるので、ある意味では「ミャンマー屋根」といえる意匠かもしれない。

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内部は外周の1間がやはり下屋というか裳階のようになっている。

なんとこの建物の中で、外国人のツアー客を見かけた。こんな辺鄙な村の寺院で観光客に会うとは! 観光寺院以外でお仲間に会うのは初めてじゃないだろうか?

『lonely planet』には載っていないが、実はこの寺は観光コースなのか?

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このお堂の中にはマント仏が2体。

僧衣というよりもドレスみたいな感じの衣裳だ。

手前には坊主頭の僧侶と思われる人物が3人かしずいている。見慣れない構成だ。

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天井は最上級のモン式折上格天井。

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①テインジー得度堂(とくどどう)

先ほど立ち寄ったパヤピュー僧院にもこれによく似た建物があり「得度堂ではないかと思う」と判断したばかりだ。

この寺の案内図によれば「ordination building」とある。意味は「聖職位授与の建物」だから、「得度堂」という日本語訳は完全に的を射ていた。

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得度堂は中には入れなかった。

建物の周りには、タケノコみたいな結界石「ティン」がある。

この石は得度堂を判定する目安のひとつだ。

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境内にはほかに大きめのパゴダが2基ある。

これはそのうちのひとつ、⑦マハシードパゴダ。

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⑥シンスェ堂。外見がユニークな形をしているが、施錠されていて中の様子はわからなかった。

伽藍配置図のすべての建物を確認したわけではないが、この寺院では、当サイトの造語「二十八仏堂」と「得度堂」が適切な形容だったことがはじめてわかった。

またこの寺はモン様式建築を学ぶ上で、非常によい教材といえそうだ。

(2015年11月29日訪問)

福岡県の仏像 (アクロス福岡文化誌 8)

単行本 – 2014/3/30
アクロス福岡文化誌編纂委員会 (編集)

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