かれこれ1時間、畑や林の中の道を行ったり来たりしている。目的地の鍾乳洞、岩屋の穴が見つからないのだ。日が長い季節とはいえ、暗くなってからカルスト地形をウロチョロするのはいいこととは言えない。変な縦穴でもあって足を取られて落ち込めば大変なことになる。
一度集落に戻って、道を尋ねることにした。最初に訊いた夫婦はこんな感じ。
「岩屋の穴に行きたいんですけど」
「おとーさん、あれを訊いてる人がいるよ」
「んー、そこに学校がある、それを過ぎると運動場がある。そこに車を置いて歩けばいい」
「学校と運動場のあいだに棚田のほうへ登る道がありますよね? そっちですか?」
「そこはちがう」
「じゃあ、どちらに行ったらいいですか?」
「ん~・・・」
「運動場は通り過ぎて、先のほうに行くんですか?」
「ふ~ん」
「運動場、通り抜けられますよね???」
「ん~・・・?」
「あ、ありがとうございました。自分で探してみます」
何だか、さっぱり話が通じない。肝心なポイントを尋ねると黙ってしまう。わかったのは学校の先に運動場があるということだけだ。そんなことはもう1時間も歩き回っているからわかっている。そもそも運動場というのは学校の校庭だから、わざわざ「学校の先に運動場」と分けて説明するほどのものではない。
仕方がなく、また別の女性がいたので道を尋ねてみた。
「岩屋の穴に行きたいんですけど」
「ああ、穴ですね。いまおとうさんがいないから、教えられません」
「だいたいでいいんです」
「そうですかぁ、この道を行くと学校があります」
え? コ・ノ・ミ・チ・ヲ・イ・ク? いやいやいや、いま学校のすぐ前にいるよね? 学校から50mも離れてないよね? どうも話が噛みあわない・・・
「学校の先で道が分かれてますよね? どっちに行ったらいいですか?」
「そこから先はよくわかりません」
「そ、そうですか・・・」
結局、話を聞いている場所から100mくらいより先のことはまったく通じないのだ・・・
何か集落で鍾乳洞の場所を他所者に教えてはいけないという申し合わせでもあるのか。これじゃ、岩屋の穴がどの方向にあるのかさっぱりだ。近いのか遠いのかすらわからない。
仕方がない、もう一度すべての道を洗い直すか。
学校の北側を通り、作業場(老人憩いの家?)がある場所から西へ300mほど進むと、左写真のような分岐がある。
この分岐の右側のドリーネを中心にすでに1時間さまよった。今度は左を徹底的に探すしかない。
分岐を左へ進むと、道は左回りに山を巻きながら薄暗い植林地へと入っていく。
100mほど山を巻いていくと、道ばたに手すりのある一帯に出た。
ここが岩屋の穴なのか?
何かありそう!
小山を登った上には大師堂の祠があった。
直感的に、違うと感じる。
鍾乳洞の入口が小山の頂上のはずがないのだ。
周囲にはドリーネらしき窪地があるが、そこへ降りていく道が見つからない。
ようやくドリーネに降りる道を発見し、岩屋の穴の洞口にたどり着いたのは19時近く。
ドリーネの底にはまったく明るさが残っていない時刻である。
洞口からはすぐに泥の流れ込んだ斜面になっていてる。その先は少し平らなホールがあり、見たところ危険はなさそうなのでそこまで降りてみることにした。
内部はグアノと呼ばれるコウモリの糞がうずたかく積もっていた。グアノは植物の三大栄養素のひとつリン酸を多く含む貴重な肥料である。
まさかとは思うが、このグアノが村の
この岩屋の穴については各種の地図と照らし合わせても、どうも行き方ははっきりわからない。
国土地理院の電子国土MAPでいえば、左図の矢印⬇の場所が洞口であろうと思う。
鍾乳洞までの道順を、言葉で説明すると次のようになるだろう。
まず、阿口小学校を目指す。これはすぐに見つけられるはずだ。学校の北側の道は自動車で進入できるので校庭の外周を通って、「老人憩いの家」まで行く。一般自動車ならここに駐車する。
そこからは畑の中の未舗装の道を西へ300mほど進む。学校から離れる方向に進めばよい。オフロード可能な車やバイクならば、この記事の最初の写真の分岐点まで乗って行けるだろう。そのあたりで農耕車の邪魔にならない場所に突っ込んで駐車すればよい。
次に、写真の分岐を左へ入る。すると道は左回りに山を巻いていくのだが、すぐに鋭角に右後方に行く分岐があり、その道は開けたブドウ畑のほうへ降りていくが、この分岐は無視。
道はやがてヒノキ林に差しかかる。そのまま山を巻くように植林地の中へと進んではいけない。(大師堂のほうへ行ってしまう。)ヒノキ林に差しかかったら、右に分岐があるので植林地のヘリに沿って右(西)へ進む。(この道は畑の畔道で、地形図などには描かれていない。)畦道を、右にクリ畑、左に植林地を見ながら50mほど歩くと、クリ畑がミカン畑に変わる場所に、左の植林地内に降りる小道がある。この小道でドリーネに降りことができる。
ドリーネの底に着いたらとにかく右(西)のほうへ進む。ドリーネの底には明確な道はないが林床のため比較的歩きやすい。右手にドリーネの斜面を見ながら進めば、岩屋の穴という白御影の石柱があるので洞口がわかる。
2011年1月22日、明るい時間に岩屋の穴を再訪した。この付近の温泉巡りをするついでだ。
二回目ということもあり、今回はまったく迷わずに岩屋穴に到着した。
穴に入ろうとすると、ちょうど中から人がでてくるではないか。どこかの大学のケイビングサークルらしい。私ももう少し若かったり、同好者がいればケイビングにハマっていただろう。
地図を見てもわかるように、この鍾乳洞は山上のドリーネにある吸い込み穴だ。吹き出し穴がどこにあるのかは不明だが、おそらく鍾乳洞は下方へ下方へと伸びているのだろう。
情報によれば、深さは2,000m以上あり、内部は立体迷路状になっていて、水が溜まっている場所があったりするようだ。ほとんどの区間でほふく前進が必要という。
洞口からは土砂が流れ込んで、かなりの傾斜になってるので滑らないように注意しながら降りてみた。
すぐに平坦なホールになっていて、そこからは3つの穴に分かれている。
これは上方向に伸びている穴。
残りの2つは横に続いている。
いずれも四つんばいで進まなければ入れない。
きっとここを這って入ったら、それなりに緊張する経験ができるのだろう。
きょうは温泉旅行の途中で装備もないし、単独行なのでこれ以上は入らないが。
真冬なので天井からつららが下がっていた。
地表には氷筍ができていた。
いつかこの鍾乳洞の奥に入ってみたいものだ。
その機会はあるのだろうか。
このあと宿探しとなる。この村や近辺にはいまから投宿できる宿などないだろうから、交通の便のいい町へ行かなければならない。昨夜宿泊した勝山・久世方面へ戻れば確実だが、それでは何かを発見するチャンスも減る。
そこで、JR鉄道駅のある新見市の中心街へ移動。町中をひと回りして街道筋でビジネス旅館の看板を見つけ投宿した。明日はこの新見市を起点にして、この地域の残りの鍾乳洞を見ていこうと思う。
(2003年05月01日訪問)