さて、いよいよザバー洞窟(別名 Rice cave)への道を探す。
GoogleMaps の衛星写真は雨季に撮影されたようで、南ヤテピャン山脈の周辺は広大な沼地になっている。 これではまったく当てにできない。
まず三角公園のY字路を右に、そこから村の中の道を北上する。
ヤテピャン山脈の東斜面が見えてきた。お坊さんによればザバー洞窟はあの東斜面にあるらしい。
ふもとの数箇所から白い煙がたなびいているのが見える。遠目ではっきりとはわからないがたぶんレンガ工場だ。ヤテピャン山脈の東側は雨季には広範囲に水没して沼になるのだが、乾季になるとその沼底の粘土を採掘する工場ができるのだ。
とにかくヤテピャン山脈に近づかなければならないが、なかなか道らしきものが見当たらない。水田と沼地が干上がった平原がどこまでも続いているばかりだった。徒歩なら進めるが、オートバイで水田のあぜや水路を乗り越えて走るのは無理だ。
しばらくウロチョロしていると、レンガ工場のダンプトラックがあぜを踏みつぶした跡を発見。これでなんとか平原に侵入する足がかりができた。
平原に乗り出すと水田はすぐに終わり、あとは潅木の森の中にワダチが続いている。
方向は合っている。
この道を進むしかない。
潅木の森を抜けると道はレンガ工場で終わっていた。
レンガ工場で働いている人に道を訊ねる。
「ザバー洞窟ならあそこだ! とにかくあの崖を目指して走れ」
初めて洞窟の場所を明確に教えてくれる人に出会えた。
これまで何度も写真で見てきた特徴的な崖が見えた。
あの場所に間違いない!
この辺りは雨季には完全に水没して沼になっている場所だと思われるが、ところどころに車の走った跡がある。そのひとつを辿っていく。
途中からは開けた砂地になり、どこを走っても構わない状況になった。全体がひび割れた粘土質の地面で、完全に乾き切っている。
沼の底、雨季には絶対に来れない場所だ。
そこを砂ぼこりを蹴立てて走り続ける。
山の近くまで来たら、ひとつの踏み分け道に目星を付けてオートバイで乗り入れる。
とにかく崖を目指して進むという以外に説明のしようがない。
踏み分け道はすぐに狭くなったので適当なところに駐車して最後は徒歩。
地表には干からびたタニシの殻が無数に落ちていて、足下からはパリパリと殻の砕ける音がする。
おお! これがザバー洞窟の目印、鍾乳石の露頭だ。
この露頭をどんなに探してきたことか。それがいま目の前にある。
ここが入口かな。
洞窟寺院の入口にしては、あまりにも飾り気がない。
岩と岩の割れ目に狭いルートがあった。
行く先にはいくつもの巨大な鍾乳石の柱が崖にもたれかかり、木の根が絡みついている。
まるで廃虚になった古代の神殿の中を進んでいるようだ。
辺りは二次生成物が非常に豊富で、それがすべて地表に出ているのだ。
おそらくもともと地底で発達したものが、山体崩壊で地表に出たものではないかと思う。
しばらく進むと洞口が見えてきた。
立て看板があった。
あとで Google 翻訳に入力してみたら「許可なく洞窟に立ち入ったり、鍾乳石を採取してはいけません」みたいなことが書いてあったようだ。
とはいえ、観光で入っていけないという雰囲気はまったくない。
洞窟の奥に寝釈迦と、たくさんの仏像が波打つように並んでいる。ザバー洞窟寺の特徴的なビジュアルだ。
ミャンマーにはカレン州以外にも洞窟寺院があるし、カレン州だけでも50ヶ寺以上の洞窟寺院を見てきたが、この波打つ仏像群のおかげで、一目で他の洞窟と見分けることができるのだ。
壮大な空間!
複雑に折り重なったフローストーンを利用して仏像を並べた神秘的な洞窟寺院だ。
このメインとなる洞窟の奥行きは50m程度で決して深くはない。だが、鍾乳洞の大ホールがまるごと地表に出ているという感じなので、外光の中で鍾乳石を充分に堪能できる。
これまでもほとんどの洞窟寺院がそうであったように、観光客などまったく来ないので風景を独り占め。
仏像群の周囲には這い込めるような支洞はいくつかあるが、たぶん深くはないだろう。
主洞は仏像の背後にあるフローストーンが流れ出ている穴か、その右上の縦穴だろう。
特にフローストーンの穴(写真)はハシゴでもあれば入っていけそうだが、仏像の光背のように扱われているので、たとえ続いていたとしても観光客が入ることはありえない。
洞内には瞑想所のようなしつらえがあるが、お坊さんはいなかったし、常駐できそうな感じの場所ではない。
実はこの仏像たちにも捨てがたい魅力がある。
メインとなる寝釈迦の、この微笑み!
ちょっと他では見られないレベルの微笑み具合だ。
その回りを取り巻く過去仏たちも、得も言われぬゆるさ。
いや~見れば見るほど、なごむ。
洞窟の奥から、洞口方向を見たところ。
下のほうへ降りて行くルートがあった。
どうやらあの支洞に入れるようだ。
支洞は人が立って歩けるほどの高さで、50mくらい続いて、その先で貫通している。
距離は短いけれど、 足下が悪いので懐中電灯がないと通り抜けるのは難しいだろう。
支洞内にあったクラゲみたいなフローストーン。
支洞の出口付近にはリムストーンが発達していた。
支洞を抜けたところはまたホールが崩落したような崖で、生クリームを垂らしたような巨大な鍾乳石が立ち並んでいた。
洞窟珊瑚。
とにかく二次生成物が豊富だ。
繊細なリムストーン。
というより、洞窟脳珊瑚とでも呼びたい形状。
こちらのホールには仏像は飾られていない。
小さな支洞はあったが、深くはなかった。
外へ出てみよう。
行き止まりになっていた。
どうやらこちらの洞口からは外へ出ることはできなようだ。
この巨大な鍾乳石は崖の崩壊で斜めになったのだろうか。どうしてこんな地形が出来るのか不思議だ。
斜めになった鍾乳石の下は10mくらいの深さの窪地になっている。周囲の湿地よりも低いと思われるが、水はなく乾いていた。
陥没した地形だろうか。
この縦穴にも別の洞口があるのではないかと思って、木の根にしがみついて降りてみた。
穴の底まで行ってみたが洞窟は見当たらなかった。
たぶんこれでこの洞窟で見るべき場所はすべて見たと思う。
帰国の直前の最後の最後に、やっと念願のザバー洞窟を訪れることができた。
わずかな情報しかなかったが、来てみると想像以上にすばらしい洞窟だった。
パアン市内からも近く、レンタルバイクで数時間の冒険をしたいという人には最適のアクティビティと思う。
2020年夏ごろの衛星写真を見ると、ヤテピャン洞窟からザバー洞窟までの運河のようなものが作られているのが見て取れる。近いうちにヤテピャン洞窟寺からボートで行けるようになるかもしれない。
(2020年02月13日訪問)