旅は4日目に入る。宮崎市内のホテルを出て、最初に向かったのは綾町ある「綾の手紬染織工房」。
綾町郊外の丘陵地のふもとにあり、染織作家で伝統工芸師の秋山眞和が率いる染織工房だ。
養蚕から染め織りまで垂直統合しつつそれなりの規模で継続している国内でも有数の工房と言っていいだろう。
工房内は見学できるが、作品なども展示されているので外観の写真だけを中心に紹介していく。
秋山眞和氏は巻き貝の内臓からわずかに取れる染料から紫色を染める天然染色の「貝紫」を実用化した作家としてとみに知られる。綾の手紬は、この貝紫と蚕品種の小石丸を使った高級手機織物と藍染めを明確なブランドとしている。
辞書で「
全国に○○紬という織物産地はたくさんあるが、それらのほとんどが生糸の織物であり、国語辞書の語義とは乖離している。むしろ国語辞書が現実に即した注釈を加えるべきではないか。唯一、日本国語大辞典だけが「紬糸
繰糸場は3条の多条繰糸機が4釜あり、ちょっとした座繰り糸工場の規模だ。よく日本には製糸工場は4ヶ所残っていると言われるが、このような小さな製糸所を含めると実際には10ヶ所くらいはあるのではないかと思う。
私が生まれ育った前橋市は生糸の町と呼ばれ、数百軒の製糸工場があったとされるが、それらの多くがこうした小規模な座繰製糸所だった。
接緒は回転式の接緒器を使っていて糸道はケンネル式。繊細できれいな生糸を作れそう。その辺りの装置は全体的に新しく見えるけれど、繰糸鍋と煮繭鍋だけは古い焼き物のパーツが使われている。
この焼き物のパーツ類、長野県の大工原製糸(廃業)で見たものとまったく同じだ。もしかして諏訪地方で作られたパーツなのではないかな。
染め場にはたくさんの藍甕が並ぶ。壮観な姿だ。
甕が床よりも高い位置にあるのは、発酵の温度を保つための暖房装置が組み込まれているからであろう。
秋山眞和氏は藍の還元酸化による染色の仕組みを応用して貝紫の染めを発明したのだという。
産地の小規模な染色工場などに比べて空間にゆとりがあり、むしろ県の繊維試験場などを思わせる。
すごく仕事がしやすそうな染め場だ。
(2012年03月21日訪問)