水田の鰓脚類

田植え後の水田でよく見る生きものたち。

(徳島県上板町七條元原)

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6月になると田植えの終わった田んぼを見にでかける。

整然と植えられた水田に空が映る、田んぼが一番美しく見える季節だと思う。

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まあ、目当てはこの写真の中央に映っている水田の中の島なのだけれど。私はこれを「タシマ」と呼んでいて、吉野川下流域の藍作地帯に高密度に分布する一種の信仰である。

でも田んぼを見て回っていれば、タシマだけではなく田んぼの生きものが目に入ることもある。

徳島の田んぼで見られる鰓脚類(さいきゃくるい)3兄弟を紹介しよう。

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3兄弟の長男と言ってもいいのが、これ、カブトエビ。

名前はエビとなっているけれど、エビの仲間ではなくミジンコに近い生物だ。

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海にいるカブトガニとどことなく似ている。

どのくらいの大きさかというと、、、、

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けっこう、大きい。

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そして、裏側はかなりキモイ。

誰もが、映画『エイリアン』を想起するよね。

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水田の乾いた土に耐久卵を生み、田に水が張られると孵化、10日前後で産卵できるまで生長するという。そのため、水田が水抜きされても繁殖できる。水田に合った生態を持つ生きものなのだ。

腹側にあるエラ兼足で泳ぎまわるとき、泥を掻き上げるので水が濁り、雑草の発生を抑制するという話もあるが、本当なのだろうか?

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でも実際、カブトエビが発生している田んぼとそうでない田んぼを見比べてみると、明らかに違いがある。右側がカブトエビが発生している田んぼである。

なので、写真の右側みたいな田んぼを見かけたら、カブトエビが発生している可能性があるので、よく探してみよう。

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兄弟の2番目、ホウネンエビ。

どことなく女性的な可憐さで、田んぼの妖精といってもいいかも。

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身体は半透明で、脚部を上にして泳ぎまわる。

私が子どものころ、ホウネンエビとほぼ同等の海棲プランクトンを「シーモンキー」という名前で玩具屋で販売していた。買ってもらったことがあるが、生長させることはできずに死に絶えたのを覚えている。正直、子どもには難しかったのじゃないかな。

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ホウネンエビの名前は、この生きものが発生しやすい田んぼは豊作になるという伝承があるからだという。

そういう傾向があるのか、一度稲作農家に訊いてみたい気がする。

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ホウネンエビやカブトエビの発生条件は、たぶんかなり繊細で、水温、日照、pHなどが、たまたま一致した結果、特定の圃場で大発生するもののような気がする。無農薬の田んぼに行けば見つかるというような単純なものではないのだ。

なので、このページの右上の地図も、最初の水門の場所にマーカーを立てておく。ここに行けば必ず見られるということではない。まぁ、徳島平野の田んぼを6月上旬に1枚1枚見ていけば大した苦労なく見つけられる生きものだ。

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3兄弟の末っ子は、カイエビ。

この写真は幼生がワラワラと泳いでいるところ。

中央の黒っぽい生きものはたぶんコガムシじゃないかな。

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カイエビは、ぱっと見には二枚貝のような外観をしている。小さなシジミみたいな甲羅の中に身体収めることができる。でも貝類ではなく鰓脚類なのだ。

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この生きもの、徳島に来るまで知らなかった。

とてもユニークな生きものだと思う。

(2006年06月03日訪問)

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