
十津川村で行ってみたかったのが、昴の郷という温泉施設にある
野猿は私が以前住んでいた徳島県の祖谷にも観光野猿があり、また、かつて那賀川では観光ではなく通学などで実用として使われていた野猿が実際にあったという。だが、何となく「野猿」と聞くと先に思い浮かぶのがここ十津川村なのだ。

野猿とは川を渡るための小型のロープウェイのようなものだ。吊り橋や抜水橋に比べて安価に設置できるため山間地で使われたと思われるが、詳細はよくわからない。
林業で長距離に鋼線を張る技術は明治の中ごろに成立したというから、野猿が使われたのは明治後半~昭和前半の半世紀ほどであり、短い期間だったと思われる。

徳島では資材や作物を川を渡すための索道がまだいくつか残っていて、その中には増水時には人が乗ったことがあるという話も聞いた。
だがそうした索道と野猿を私は区別していて、それは荷物を載せるか人を載せるかではなく、運転方式の違いだと考える。索道は岸にある基地で曳索を引くが、野猿は動く搬器の中で曳索を引くという違いである。

主索が2本で搬器に屋根があるのが観光野猿に共通している。こうした構造が普遍的なものなのか、あるいは十津川のものを参考に祖谷の野猿を造ったのかはわからない。
ただ徳島で実用野猿があったという那賀川とここ十津川どちらも林業地帯であり、河川が穿入蛇行で河道が長いという共通点がある。林業地帯には架線技術者が多く、蛇行のせいでひとつ橋をかけてもその橋までの道のりが長くなり渡河の負担が大きいという環境が似ている。

昴の郷の野猿は無料。夜間以外は自由に乗ることができるのがうれしい。ただし対岸に人家や畑があるわけではなく、行って帰って楽しむだけだ。つまり遊具である。
日本中を探せば必要で造られてまだ残っている野猿がまだどこかにあるのだろうか。
ちなみに、写真で川に茶色い土砂が積もっているのは昨年の災害の跡で、おそらく本来の川の様子とは違っていると思われる。
(2012年07月09日訪問)