亀山製絲

亀山市工業の中核だった製糸工場。

(三重県亀山市東御幸町)

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9年前に四日市市で亀山製絲室山工場を見たとき、現在の亀山製絲がどんな会社なのか見てみようと、亀山市の本社の前の道を通ってみた。

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多くの製糸会社が不動産業やスポーツクラブ経営などに事業転換しているが、亀山製絲は現在も繊維産業の業態を残している。

ただし、繭から生糸を作るいわゆる製糸業ではなく、化学繊維で寝具、建築資材などを製造する会社になっている。

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会社の前を通っても、きれいなビルに建て替わっていて、もう製糸工場の面影はないな、とそのまま通り過ぎてしまったのだった。

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ところが後になってGoogleMapsを見ていたら県道から見えない裏側のほうの工場建屋は製糸工場時代のままなのではないかということに気づいた。もちろん内部の生産設備はそっくり化学繊維のものに入れ替わっているのだろうけど。

そこで古い航空写真を調べてみた。

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これは1990年ごろの写真。まだ製糸工場としての設備がひと通り写っている。各施設はだいたい次のような建物だったのではないかと想像。(ちゃんと調べたわけではない)

❶社員寮、❷ 社員寮、❸荷受・乾繭場、❹乾繭場、❺繭蔵、❻選繭場、❼ボイラー室・大煙突
❽繰糸場、❾再繰場、❿副蚕場、⓫恒温室・検査室、⓬事務所、⓭仕上・出荷室、⓮倉庫

このことから現在の工場社屋はたぶん製糸工場時代の繰糸場と再繰場を転用したものではないかと思われた。

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前回は素通りだったけれど、今回は工場の敷地の外側から様子だけでも見てみようと、堤防の上の道へ入った。

道路が堤防の上にあるから工場の中が見えるのだ。

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これらの建物が、製糸工場時代の建屋ではないかと思われるもの。

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その横の倉庫はもと社員寮があった辺りに建てられているので、事業転換後にできたものではないかと思う。

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もうひとつ、工場建屋からかなり離れた場所にも倉庫のようなものがある。

ここも製糸工場時代には社員寮が並んでいた場所だ。

それにしても、市街化が進んでいる駅の隣接地にこれだけの敷地を持っているってすごいな。製糸が地域の中核産業だったことがわかる。

私が住む関東地方でも、駅に近い巨大なショッピングモールは、製糸工場の跡地だったりすることが多い。

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亀山製絲の沿革について、簡単に紹介しておく。

亀山製絲のルーツは明治18年に創業した田中製糸という製糸工場で、現在の亀山駅の北側の西町にあった。その工場の資産を継承して、現住所に亀山製絲株式会社が設立されたのが明治44年(1911)だった。

その後、いくつかの製糸工場を合併して事業を拡大。室山製糸の譲渡を受けたのは昭和16年(1941)のことだった。

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昭和40年ごろから不動産業などの多角経営に乗り出し、不織布やナノファイバーなどの新素材の事業を行なっている。現在の新社屋は平成3年(1991)に建てられた。

ちなみに私が卒業した前橋市の中学校の隣りの敷地には亀山製絲の乾繭場があった。群馬で買い集めた生繭を三重まで輸送するために乾燥する工場だ。操業時にはカイコの蛹の蛋白がすえたような匂いがしていた。当時エアコンなどないから教室の窓を開けると気が遠くなるくらいの匂いだったのを憶えている。その跡地は現在はスーパーマーケットとスイミングクラブになっている。

(2024年12月13日訪問)