三重県でもう1ヶ所寄り道したのがここ、亀山製糸室山工場の跡地だ。古い製糸工場の建物がいまも残る。

私の基準ではただちに国重文に指定すべき建築物だと思うのだが、世間ではあまり話題にのぼることもない。

伊藤製糸は三重県で最大の製糸工場となり、明治12年には蒸気機関による運転を開始。明治を通じて優れた品質の生糸を生産し、パリ万博にも出品し金賞を受賞している。

明治43年には皇太子時代の大正天皇が視察するほどの名門工場だったが昭和恐慌で業績が悪化、昭和13年に室山製糸に改組、昭和17年に亀山製糸の室山工場となった。

亀山製糸になってからの室山工場は平成7年(1995)まで操業した。

つまり閉業から20年がたっている。

現在残る繰糸場の建物は、富岡製糸場をモデルに造られたものだ。

伊藤製糸は一度火災を起こしていて、明治36年に再建されたという。現在の繰糸場の建築が火災前のものなのか、火災後に再建されたものなのかはっきりしない。そもそも伊藤製糸に関する情報ってあまりないので・・・。

ただし明治36年の再建だったとしても、意匠が凝っていて見ごたえがある。

ゆるいルネッサンス様式の擬洋風とでもいえばいいか。

軒の持送りが工場とは思えない凝りかた。富岡製糸場にこのような精細な意匠はない。

塀にそって時計回りに歩いてみよう。

事務所のあたりは長屋のような建物がある。

その先は背の高い文化塀になっているが、よく見ると壁板が木だ。ときどき腐って取れたりしないのかな。近所に住んでたら板が取れたときに中を覗けそうなんだけど・・・。

塀の上にカメラをかざしてノーファインダーで撮影した建物の様子。

窓が多く、明るい工場だったと思われる。外観からは2階に窓があるが内部は吹き抜けだった。

工場の西側へ廻ってみた。

敷地の西側は塀がないので中の様子が見渡せる。

敷地に残る倉庫。

たぶん亀山製糸時代に、出荷前の生糸などを入れていた倉庫ではないかと思う。

私としてはもはやこうした折板葺き、重量鉄骨の建物ですら、荷受け場や繭倉庫であれば写真を撮っておかねばと思ってしまう。

敷地は約2ヘクタールあり、隣接するスーパーのマックスバリュよりも広い。

繰糸場の北面。

南側には1階に窓が並んでいるが、北側にはない。この部分には下屋があったか、隣接する建物と連結していたのかもしれない。

越屋根の両端部分はスレート葺きになっている。

操業時に雨漏りでもあって改修したか。

中央部分は棟が腐って抜け落ちているし、壁もぐにゃぐにゃに曲がっている。

西端の越屋根や、下屋の屋根も補修されたあとがある。

もともと雨仕舞いの悪い場所だから、ここも操業時に直した場所なのだろう。

屋根の崩壊が特にひどいあたり。

もしこの建物を文化財にして保存するにしても、いったん解体して柱や桁などを入れ替える必要がありそう。雨漏りを止めるだけでも一桁の億じゃ足りないくらいの工費がかかるだろう。

土地を買い上げるにしても、屋根を直すにしても、地方自治体には荷が重すぎる。

燃料倉庫と、井戸の跡かな。

周囲は住宅地で、遠からずこの土地はショッピングセンターになるか宅地開発されるだろう。

繰糸場もそのとき取り壊される可能性がある。平成になってからも貴重な製糸工場の建物や繭倉庫が取り壊されているからだ。保存される確率は五分五分より低いような気がする。

なくなったらなくなったまでで、それは地権者や自治体の判断次第なのでしかたがないと思う。私たちにできるのはなくなる前によく見ておくことだけだ。