宮島口港のフェリー乗り場に着いたのは、4時近い時間だった。今にして思えば、日の長い夏のしかも関西だということを考慮しても、宮島観光に向かうのに適した時間とは言えない。
だが私は旅のほとんどの場合はろくに下調べもしないし、まして宮島は5日目の予定だったからどんなところなのかまったく知らなかった。港に着いてみて、島には車を持っていかないのが普通だと初めて知ったくらいなのである。「でもまあ、徒歩でも神社ひとつくらい4時からでも観光できるだろう」という程度の感覚でフェリーに飛び乗っていた。
だが、船上から島の様子が見えるにつけ「ちょっと全部見るのはきついかな」という気がしてきた。社殿や堂塔がかなりありそうなのだ。
島に着くとまずシカがお出迎え。おとなしそうに見えるが、さわったりしたら嫌がりそうな雰囲気だった。奈良公園の鹿のほうが少しフレンドリーな感じだろうか。
ちなみに、愛媛県に鹿島という宮島を小さくしたような島があってそこにも鹿が野放しになっているが、ほとんど野生のような感じで50m以内に近寄るのは容易ではなかった。私がこれまでに見た放し飼いの鹿で一番ありがたく感じたのは愛媛の鹿島だ。
島の船着き場から、海岸に沿って厳島神社へと向かうと、途中の丘の上に大きな入母屋屋根と五重塔が見える。末社の豊国神社だ。
豊国神社エリアもたぶん厳島神社の境内なのだが、それを言うと、厳島神社として紹介するページが多くなりすぎてしまうので、豊国神社としてページをわけて紹介することにする。
左写真は入口にあった神馬舎。
石段を登って豊国神社の境内へと進む。
旅が4日目で疲労も抜けず、わずかな石段でも足が痛む。
豊国神社本殿・千畳閣。
拝観料は100円。
15間×13間の巨大な建物だ。外観から言えば浄土真宗の本堂のような感じ。
この建物は、豊臣秀吉が厳島神社の例祭で読経の場所として作らせたものが、秀吉の死で建築が途中で放置されたものだとされている。中はがらんとしていて、壁もなく、天井もないので、中に入ると巨大な絵馬堂ようだ。
伝説どおりの建物の用途からすると、仏教の「本堂」にあたると思われるが、だとしたら大きさのわりに内部の開放感がない。柱も多いし、長押の位置も低く、どちらかというと御殿建築に近いものではないか。
建物は桃山時代のままで、国重文。
勇壮な建物で拝観料も安く、このように自由にくつろげるのもウレシイ。宮島観光で疲れた観光客が一息ついていた。
同じ境内にある五重塔。
室町時代初期の創建といわれ、桃山時代に改修されたという記録がある。まあ、そのとおりのものなんだろう。
檜皮葺きで、和様唐様の折衷。
各層の階高が高すぎイマイチな塔なのだが、最近そういう塔もいいんじゃないかと思うようになってきた。つまりこれは近くで見るものではないのだ。1層は連子窓もない粗雑な作りで、この塔は遠くから2層以上を眺める設計だという主張をしている。
五重塔のほうから裏手に石段を降りると、土産物屋街に着く。
時間がないので土産物屋を冷やかすことができないのが口惜しい。
2階に渡された日よけの簡易アーケードがしびれる。
このような公道をまたぐ私設構造物に異様に萌えてしまうのは私だけだろうか。
再び厳島神社の入口方面に戻る。
途中にあった荒胡子神社。本殿は国重文。
「文庫」とされる建物。
竜宮門の下部の亀腹のような土蔵。禅宗っぽい建物で、これはかつての経蔵だったのではないだろうか。
(2002年08月29日訪問)