カレンニシナルの魔除け飾り

敷地の隅に竿を立てて上着を掲げる村。

(ミャンマーカレン州パアン)

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AH1号線をコーカレイ方面へ向かい、パアン郡区の東の外れのあたりまできた。パアン市街からはだいぶ走ったが、ここまでの車窓の風景は他の田舎とさして違いは感じられない。

道に面して寺の山門らしきものがあった。この道を入った先の寺で昼食を食べるために予約が入れてあるらしい。

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これは村のレストラン。行きずりでこういうお店に一人で入れるようになったら、ミャンマーにかなり溶け込めるだろう。私にはいまのところ無理だけど。

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山門を入っても、しばらくは寺は見えてこない。赤土のでこぼこ道が続いている。

この地域をカレンニシナルと言うらしい。

カレン州の未舗装の村の道路の風景はだいたいこんな感じ。

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家々は、先に紹介したカレン様式の建物と同じだが、素材が木の葉やヤシなど、より素朴なものが多い。

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村の家々に不思議なものがあるのに気付いた。

家の敷地の隅に竿が立ててあり、そこに貫頭衣がかけられているのだ。

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どう見ても洗濯物ではない。

魔除けかなにかではないか。

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しかも、ここに掛けられている貫頭衣は、かなり模様が細かいもので、おそらく手織りの布と思われる。

こうした細かい模様の貫頭衣がカレン民族の伝統的衣裳にあるということは知っていたが、パアン市あたりでは着ている人を見かけないし、売っているのも見たことがない。パアン市で売っているのは、もっとシンプルな縦縞のような柄の機械織りの服ばかりだ。

博物館とアンティークショップでしか見たことがないので、野ざらしになっているのは「もったいない」と思ってしまう。

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魔除けはほとんどの家に立っており、飾り付けもさまざまだ。

この家の場合は、地球儀のようなものが付いている。

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貫頭衣が低い位置についている場合もある。なにか意味があるのかもしれない。

竿のてっぺんにはカレン民族の旗が掲げられているので、この魔除けはカレン独特のものなのだろう。

だが、私はこれまで他の村で類似のものは見たことがない。

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パゴダの九輪のようなものが付いている。

地球儀状の竹カゴにはビニールがかぶせてあり、提灯のようにしつらえてあった。だたし明りがつくというわけではなさそう。

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天秤ばかりかと思われるような飾りもある。

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目籠と天秤。

目籠は日本でも魔除けとして、高いところに掲げる風習がある。たくさんの目でにらみを利かせることで、魔物を追い払うとされている。

これだけ見たら、多摩や習志野あたりの写真かと思ってしまう。

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竿の下には、竹で作った柵がある。

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柵の上は棚になっていて、お供え物が置けるようになっていた。

タンバッタィンドゥエイパゴダで見かけたお供えの装置とよく似ている。

この村には古い造りのままの家が多いのでじっくりと見てみよう。

屋根や壁がインペという葉で造ってある。この葉は竹枠に敷き並べたユニットになっているものが売られていて、それを取り付ければそのまま使える。いわば、プレハブである。屋根に使うと2年くらいしかもたないとか。

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一軒の家に声を掛けて、中を見せてもらうことにした。

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上り口。

柱の長さが違うハシゴで家に入る。

聞いたところでは、室内の側を長くするのだという。

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玄関の上にあった謎の飾り。

鉄板をハサミで切って、蝶のようなものが作ってある。材質からして伝統的なまじないではないと思うが。

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同じく、玄関の上にあった木製のナタ。

何か、悪いものの侵入をふせぐまじないだろう。

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別の家に声を掛けてみる。

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こちらの家もハシゴの右側の柱が長い。

室内側を長くするというルールからすると、この置き方は変ではないか。なにか意味があるのだろうか。

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玄関の横はベンチになっていて、家人がくつろげるようにしてあった。

家の柱の風化具合を見ると、先ほどの家よりこちらのほうが古そう。

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また、別の家に声を掛けてみる。

こちらは室内側が長い。

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居間まで上がらせてもらった。

上がり(がまち)は床が斜めに切り込んである。

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床はスノコ状で、下が透けて見える。風通しがよいし、塵や埃を掃き出せるので衛生的だ。

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この村は機織りが盛んで、多くの家で機織りをしていた。機のタイプは織り手の腰にベルトをまわしてタテ糸にテンションをかける、腰機というタイプのものだ。

自分たちが着るのではなく、内職として機織りをしているのだろう。

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床が一段高くなっている場所があった。居間における、上座ではないかと思う。

壁にはアイドルのブロマイドが一面に貼ってあるのは、若い娘さんのコレクションなのだろう。

奥の部屋はベニヤ板で区切られていて、プライベートな空間のようだ。客人は居間までしか入れないのだと思う。

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仏壇。

日本人が考える仏壇や神棚と同じような機能のものだ。お寺の門前町で売っているお坊さんのブロマイドやパゴダのポスターなどで飾り付けられていた。

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居間部分には壁はなく吹き放ち。

一年中これで生活できるのだろう。

それでも、乾季の明け方などは最低気温は18度くらいまでは下がるから肌寒く感じることはあるはず。

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裏側には台所と思われる部屋があった。

この村の魔除けの飾り付けついては何人かのミャンマー人に質問したが、どのような目的なのかはわからなかったし、こうした飾りがカレン州の他の村にもあるのかもわからなかった。一口にカレン民族と言っても、実際にはさらに小さな部族に分かれているので、それぞれに違った風習があるということだった。

こうした飾りが他にもあるのか、今後は注意して見てゆこうと思う。

(2014年07月14日訪問)

日本俗信辞典 衣裳編 (角川ソフィア文庫)

文庫 – 2021/7/16
常光 徹 (著)
ネコは家から盗み出した手ぬぐいをかぶって踊る」「赤褌はフカが恐れる」など、衣類を中心に、履物、被り物、裁縫道具、化粧道具、装身具、寝具に関する民間の言い伝えを収集。

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糸のほつれを解くおまじないなど、冒頭から興味深い内容ばかりでした。