ダザウンダインボエードー、あるいは、ダザウンダイン祭り。満月の日に小さな気球を飛ばす祭りがあるということは前から知っていた。今年(2014年)は11月5日がその祭りの日である。残念ながら5日は仕事の派遣日程に入っていなくて、見られないとあきらめていた。
ところが折りから台風が通過し、祭りは延期となっていた。11月7日のこの日、2日遅れで気球祭りが執り行われることになったのだ。
場所はアジヤヤマペヤ僧院の南側の田んぼの中。
すでに人々が集まっている。
音楽屋(トラックにスピーカーを積んで音楽を流す商売)が、カレン風ディスコサウンドを大音量で鳴らしている。また爆竹を鳴らす音が、時々聞こえるのがアジアっぽい。
おっ、すでに気球をあげてるじゃないか。
この種の祭りは東南アジアの他の地域にもあって、タイのチェンマイのイーペン祭りが有名。一般名称はスカイランタン祭りか。
そのイメージから、夜の祭りかと思っていたが、カレン州では日中の祭りなのだ。よって「ランタン」とは言えないので、「気球祭り」と呼ぶことにした。
会場までは歩いていく。田んぼの中はでこぼこで歩きにくいのであぜの上を進む。乾季なので乾いている。
どうやらミャンマーの田んぼには、トラックや牛車などが入るための道路というのがないようだ。田んぼの中で脱穀して籾で運び出している場面を見たことがあるし、トラックはあぜを踏みつぶして田んぼから田んぼへ移動する。乾季には田んぼの中に道ができることもあるのだ。
バルーン式の滑り台。
料金を取るのか、お寺が無償で遊ばせているのかはわからない。ミャンマーのお祭りでは定番の出し物。
露店はあまり出ておらず、近所の人が売りに来ている串揚げ屋とかかき氷屋があった程度。
この串揚げ、揚げてからだいぶたってるよね?
日本人が食べたら一発でお腹壊しそう。露店の食べ物にチャレンジするときは、よく衛生状態を観察してからにしたい。特に子どもが作っているところは要注意。手を洗わずに食材を扱ったりするので非常にリスキーといえる。
気球は薄いポリエチレンでできていた。レジ袋のような材質。
その下に、油をしみ込ませた何かの枝かモロコシの茎みたいなものがぶら下げてあって、そこに点火するのだ。小型の気球は会場に置いてあって、参加者は自分が好きに飛ばしてもいいようだ。私もひとつ飛ばさせてもらった。お金を払う様子もなかったので無料だったと思う。
空を見上げると、無数の気球が飛んでいる。
火のついたものがどこかに落ちるわけだし、材質もポリエチレンなのでゴミになるだけなのだが、まあこの国はおおらかなので、そんなことは問題にはならないのだろう。
車くらいありそうな中型の気球を上げているひとたちがいた。
大きめの気球にはワイヤーがついていて、ワイヤーにはロンジー(ミャンマー人が男女とも履いているスカートみたいなもの)が結びつけてある。
これは気球が落ちてきたところにいた人へのプレゼントである。ピンキリだが1着が500~2,000円くらいするので、この気球を手に入れると1ヶ月の給与以上の景品が手に入ることになる。
さらに大型の気球になると、火をつける灯心もでかい。直径 30 cm、高さ1.5 mはある。
気嚢の部分に燃え移らないように、たくさんの人が支えたり空気を送ったりしている。
大型の気球が離陸した。
大きさは、小さな小屋ほどもある。
大型の気球には毛布がぶら下げてある。これも手に入れればひと財産だ。
しかし、気球から伸びているワイヤーはかなり強靭なものなので、高圧電線にひっかかったり、街路樹にひっかかって道路をふさいだところに車が突っ込んだりしたらシャレにならないと思うのだが・・・。
カレン民族のシンボルマークが描かれ、「KAF」と書かれた気球もあった。「Kawthoolei Armed Force」の略か? 「コートレイ」は内戦時代に存在したカレン民族の独立国の名前。
カレン民族は2012年まで独立運動を展開してきて、内戦をつづけてきた。独自の軍隊も持っており、政府とのあいだでは停戦協定は結んでいるが、武装解除したわけではなく、いまでも民兵組織 KNLA が存在している。
大きな気球には金券も結びつけるらしい。これを拾って郵送すると、お金に替えられるとのこと。
ほかにも、オートバイのキーがつけてあって、それを拾った人にはオートバイがプレゼントされるというようなこともあるらしい。
「いちばん大きな気球には 150万円相当のプレゼントがついているョ」
えっ? 15万円の間違いじゃないの? 150万あったら家が建つよ? 15万でも年収に相当する金額だけど・・。
毛布とワイヤーはきれいに折り畳まれて、気球が離陸するときに絡まないようになっている。
で、その傍らに立つおじさんの手元に注目。
自動小銃、M16だろうか。もちろん、彼らは正規軍じゃないから純正の銃を使っているとは思えず、中国製のコピー品なのだろう。
気球に大金を結びつけるので、KNLAの人が警備に来てるのかな。
そう気付いてよく見ると、まわりに自動小銃もってる人たちがけっこういる。
あと自動拳銃も。拳銃はたぶんブローニング・ハイパワー(の中国製のコピー)。
カレン州は、銃器に対する敷居があきらかに低い。駐車場の交通整理のおじさんが自動小銃背負ってたり、手榴弾ぶら下げてたりする。交通整理に手榴弾、必要ないだろ!
いよいよ、最大の気球に点火するようだ。
灯心だけで 3 mくらいありそう。
足場を使って気嚢に空気を入れていく。
気嚢の模様は、中国のスターの顔写真だった。レジ袋工場かなにかから横流しされた物なのか、あるいは、中国資本からの提供品なのか。
超大型気球が立ち上がった。
ものすごい大きさ。4~5階建てのビルくらいある。
離陸!
ワイヤーは2本出ていて、それぞれに毛布がぶら下げてある。
最後の大物が飛び立つと、感極まって踊り出す人もいた。
パパパパパパパパーーン
えっ!! 時々鳴っていた破裂音は、爆竹じゃなかった!
民兵の人たちが、爆竹の代わりに拳銃や小銃で景気付けしていたのだ。もちろん空砲とかそういう気の利いたものじゃないよね。実弾は落ちてきたのに当たると怪我するという話もあるけど、まあ、ミャンマーだし・・・。
薬きょう。
子どもたちが集まって拾ってしまうので、簡単には捜せなかった。
水田の中に残っても困るだろうから、みんなが拾ってしまうのはいいことなのだろうけれど。
こういうふうに実物の銃器を見る機会があるからか、男の子たちが銃のオモチャを持っているのが目立つ。
複雑な思いもあるが、子どもたちに「武器を持っちゃいけないよ」などと、私は簡単には言えない。この村では数年前まで実際に戦闘があったのだ。父や兄が民族独立のために戦う姿を見てきたのかもしれないのだ。
大型の気球が落ちてくるのを見かけたら、景品目当てにオートバイで追いかける人たちがいるそうだ。
どこまで飛んでいくのだろう。
夕方、パアン市内に戻って夕食に外に出たとき、夕闇のなかで気球が浮かんでいるのを見かけた。
(2014年11月07日訪問)