映画『未知との遭遇』に登場するデビルズタワーのような急峻な岩山が、水田の中からにょきっと生えている。
しかも頂上にはパゴダが林立。
これは登るしかない。
登山路があれば・・・のハナシだが。
岩山を横から見ると意外に薄い。
しかも全周が切り立った岩で、登山路っぽいものも見えない。登れるのだろうか。
高さは目測で150mくらいだろうか。
岩山からかなり離れたところに山門があった。
確信はないが、おそらくこれが小山への参道だろう。
山門の装飾がにぎやかなので、観光で立ち入っても大丈夫な寺がこの先にあることは間違いない。
山門の主たる装飾は、戦鼓と水牛の角の組み合わせ。これはカレン民族のシンボルマークである。
柱の下には、3匹のカエル。
カレンではカエルは聖なる生きもので、3匹が重なったアイコンは特に神聖だという。
参道は潅木の林の中に続いており、小山は視界から消えるが、この先にあると信じて進む。
やっぱりこの道で合ってた。
山のふもとには小さな僧院があった。
街道からは見えない東側にお寺があったのだ。
寺の名前は「タンカリー僧院」。ミャンマー語で「タン」は「山」、「カリー」は「小さい」というような意味らしい。つまり「小さな山の僧院」というような名前だ。
境内には僧房とパゴダがあるだけ。
ロケーションのすごさに比べ、こじんまりとしていた。
パゴダの横には奥行きのない小さな洞窟がある。
瞑想用の洞窟だろう。
境内を一通り歩いてみたが、登山路があるとすればこの僧房の奥しかなさそうだ。
階段を登り始めると、修行僧が2階の窓から顔を出した。「山へ登れるのか?」と訊ねると、笑いながら「行けるって、大丈夫、行ける、行ける」みたいなことを言っている。
たぶんこの暑季の炎天下に山登りするなんて完全にどうかしている、と思っているのだろう。
僧房の1階。
ここは講堂になっていて、2階で寝起きしているみたいだ。
僧房の裏に山へ登る階段を発見。
レンガでしっかり作られており、履物を脱いで進むべきパターンなのだが、日差しが強く、どれだけ地面が焼けているかわかったものではないのでサンダル履きのまま登ることにした。
きょうは晴天で気温が高い。
おそらく35度はオーバーしているのではないか。しかも登山路は日当たりがよい側の斜面にあり、日陰がほとんどない。
50段も登らないうちに全身から汗が噴き出し、暑さでクラクラしてきた。水分補給しないと身体がやられる。
荷物はリュックサックの中に、500mlのミネラルウォーターが2本。あとはウチワがあるが、いくら煽いでも熱風がかかるだけで微塵も涼しくならない。
階段の一歩一歩がとてつもなくキツく感じる。
20段登るごとにしゃがみ込んで休憩する。全身は汗で水をかぶったみたいだ。
途中からはウチワで煽ぐのもあきらめ、とにかく20段数えては休憩を繰り返すだけ。
持ってきた水はどんどん減っていく。でも熱射病にならないためにも水分はためらわずに飲まないと。
階段はきれいにレンガで作られている。いま、レンガを1つ持って登れ、といわれても自分には無理だ。
よくこれだけのものを作ったな。
しかも、ほとんど参拝客なんて来ないだろうに。
約25分で山頂に到着。
周りはすべて崖なので、下を覗くとまるで空を飛んでいるよう。
山頂部は2つピークがある。
まずは登りやすそうな西側のピークに登頂。
山頂は平坦になっていて、小さなパゴダがある。
このパゴダを作るためのコンクリや水をすべて人力で担ぎ上げるエネルギーには感服する。
ここでしばらく立ち尽くしながら風に吹かれていると少しは楽になってくる。飲み水はもう一口か二口分しか残っていないが、下山は大丈夫そうだ。
西側のピークからの眺め。
きょうこれから向かう方面だ。
画面を右から左へ横切る太い緑の帯がエインドゥ・ザタピン街道。次の経由地ザタピン町は見えているのかもしれないが、これという目印もないため地平線に溶け込んでしまっている。
今度は東側のピークを目指そう。
東側のピークへは石段がなく、頼りない竹の手すりにつかまりながら登らなければならない。
岩は石灰岩と思うが、あらゆる箇所がギザギザしていて、ちょっとでも足を滑らせたら、流血は免れそうにない。
三点支持を厳守してゆっくりと登る。
サンダルを履いてきてよかった。
こんな鋭利な岩山は裸足ではとても歩けない。
東ピークに到着。
可愛らしいパゴダがあった。
東のピークから西のピークを見ると、ツバメが群れ飛んでいた。
北側の風景。もと来たエインドゥ町の方向になる。
三角形の小山が先ほど立ち寄ったカモカポ僧院の山。その先にみえるやや大きめの山体は、ヤーペータンパゴダのあったヤーペー山脈。
見渡すかぎりの平野に雲の影が横切る、壮大な風景だ。
東側の風景。
水田、荒れ地、点在する村々がどこまでも続いている。
行ってみても何もないのはわかっているが、目的もなくこんな道が終わるところまで行ってみたい気がする。
エインドゥ・ザタピン街道は事前に航空写真でチェックしてきたつもりだったのだが、この山は平面が200m四方しかなく、写真では小さな森にしか見えない。GoogleEarthでもあまりに小さいため地形として認識されないようで平地として描画されている。
完全に見落としであった。きょうは遠出になるので体力的にキツイことはしないつもりだったが、早くもかなりのダメージである。山を下りるなり街道の茶店で冷たい飲み物を何杯もお代わりし、店番の少女に笑われてしまった。だが暑季の暑さはハンパではない。この日は街道筋10kmくらい走るごとに茶店でジュースを飲むことになった。
(2015年04月19日訪問)