すると確かに役場の近くに映画館があったが、それとは別にこの酒屋の西側の空き地に芝居小屋があったという。
劇場の名前は「栄座」。
観客席は平場で、客は自分で座布団を持っていって観劇した。回り舞台等のカラクリはなかったという。上演したのは旅役者の芝居や浪曲などだったという。
話してくれた老人は、モリヒデコ(森秀子?)一座、春子大夫一座といった名前を挙げてくれた。とても上手だったという。聞いてもさっぱりわからない名前だが、演目は浪曲ではないかと思う。
「当時人気があったといえば『壺坂霊験記』だ、立ち回りだったら『大政小政』だったな。」
そうした名前が昨日のことのようにスラスラと出てくるのは、この何ということのない住宅地にかつて文化の花が開いていたことの証なのだ。
(2007年12月02日訪問)