岩窟ホテル跡

凝灰岩を掘った人工洞窟の観光地だった。

(埼玉県吉見町北吉見)

私は群馬県の前橋市で生まれ育った。

自分が小学生低学年のころ、自分の知っている世界は前橋を中心とする群馬県のごく一部だけで、他県がどういう場所なのかほとんど知らなかった。東京というのは町内会のバス旅行で行く東京サマーランドのある場所というくらいの認識しかない、いびつな認識だったのだ。

そんな幼少時代、埼玉県で唯一知っていたのが吉見百穴だった。これも家族旅行で行ったか、町内会のバス旅行で行ったのだろう。

2012年に関西から群馬県に戻り、あらためて埼玉県を見直そうと漠然と考え始めたとき、やっぱり吉見百穴は見ておかなければ、と久しぶりに訪れてみた。

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吉見百穴周辺はドギツイ観光地で、群馬県でいうと高崎観音山のような雰囲気。遺跡、お寺、温泉など色々なジャンルの観光施設がごちゃまぜに並ぶカオスな場所だ。

最初に訪れたのは「岩窟ホテル」という人工洞窟。

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ところが閉鎖されているではないか。

よくよく調べてみたら閉鎖されたのは昭和62年(1987)でずいぶん昔なのだけれど、まったく情報がアップデートされていなかった。

完全にまだやってると思っていた・・・。

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岩窟ホテルとは、吉見地区の凝灰岩の丘陵に掘られた洞窟で、ジャンルとしてはアウトサイダーアート。

吉見百穴に親に連れられて来た小学生としては、当然、興味を惹かれて入りたがるのだが、たぶん親としては「怪しい場所だな」という認識で、あまり積極的に入ろうとしなかったのを覚えている。

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それでもどうしても行きたいとねだって、入らせてもらったのだろう。あまりにも幼少のころだったのではっきりとは言えないが、入場料は子どもが50円だったような気がする。

当時「洞窟を掘ってるが訛っていつのまにか岩窟ホテルと云われるようになった」というような説明がされていて、そのことは小学生ながらに「胡散くさいな~」と強く印象に残った。

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洞窟ホテルという名前だが、ホテルとして営業したことはなく、また、営業が可能な設備ではない。細い洞窟なのだ。

内部の調度品、棚やテーブルなどもすべて崖から一体的に彫り出されたものでできていた。ただ凝灰岩だから手で触れるとザラザラと崩れ落ちる感じだった。内部は2階構造で階段も彫り出されたものだったが、階段の通路は細くて肩が壁に触れそうになり、服が砂で汚れるからイヤだな、と思った記憶がある。

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岩窟ホテルの前にはオーナーの子孫がやっている岩窟茶屋という茶店が今も残っている。

(2016年04月23日訪問)