小川の百八灯

山里にともる無数の送り火。

(埼玉県秩父市上吉田県道)

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きょうの本来の目的地、吉田町の山奥、それも群馬県境に近い一番奥にある小川集落へやってきた。

ここで行なわれる盆送りの行事を見るためである。企画したのは友人家族なので、私は車に乗せられ連れてこられたというのが正しい。

きょう訪れた門平立沢が山の尾根筋の地滑り地形にある高地集落だったのに対して、ここ小川は谷底の川沿いに家が並ぶ宿場町的なレイアウトの村だ。家々は傾斜の下にあり、背後の山の斜面を切り開いて猫の額のような畑を作っている。

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行事は暗くなってから始まるが、余裕をもって17時前には現着した。

村の中央には県道をまたぐように道切りがある。

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縄には5つの五色の幣束が下がっていた。

雨風があるだろうから、直前に取り付けられたものだと思う。

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17時、公会堂に村人たちが集まった。

行事は子どもが中心と聞いていたが、集まっているのはほぼ大人。なにしろかなりの山奥なので子どもも少ないのだろう。

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庭のテントには触れ太鼓、鉦、依り代(よりしろ)の神輿が準備されている。盆送りの行事の最後に登場するものだ。

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こちらは松明(たいまつ)

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大人たちが県道に出て、送り火の準備を始めた。

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ここでの送り火は皮をむいたコウゾの枝で三脚を作り、その上に平たい石を置き、空き缶で松の木の灯心を燃やすというものだ。

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これがコウゾかな。

枝の皮をむいて使うということは、かつてはこの山里では和紙造りが行なわれていて、コウゾの廃条が大量にあったという歴史を物語っているのではないか。

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三脚になる枝は結束して沢に浸けてあった。火が燃え移るのを避けるためか。

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友人の子供たちも三脚の組み立てを手伝う。

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三脚はシンプルな構造で、この上にバランスよく石を置くのはむずかしそう。

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石と空き缶のセッティングが完了。

缶詰め中にはボロきれが詰め込んである。灯油が浸してあるのかな。

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そのボロきれに松の枝(根?)を3本づつ差し込んでいく。

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送り火の数は百八をはるかに超えていて、数えてみたら390本もあった。

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所々には照明用の大きなかがり火がある。

30分ほどで準備は完了。いったん村人は解散した。

行事の本番は18時45分ごろから始まるという。

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1時間ほどぶらぶらしているうちに日も落ちて、山並みはシルエットに変わる。

公会堂には人々が集まってきた。

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庭にはお囃子も出ている。

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松明が点火された。

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いよいよ送り火の始まりだ。

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まず照明となるかがりに火が移され、あたりが赤々と照らし出される。

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個々の送り火にも火がともされた。

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数が多いのと、消えてしまうものもあるので消防団の人がバーナーで火をつけていく。

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すべての送り火が点火されると、県道を照らす光の道が出現する。

百八燈という名前の想像を超えるファンタジックな光景だ。

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カエルの声が聞こえる川面に送り火が映る。

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真っ暗な山里が炎で浮かび上がるが、その時間はわずか。

灯明はすぐに燃えつき、炎は小さくなっていく。

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と、そのとき道を横断するように花火が点火された。

いつのまに準備してたんだ!?

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花火大会も兼ねているのだ。

けっこうな数の花火が打ち上げられた。

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花火が終わると、公会堂に安置されていた依り代が男達に担がれて歩き出した。

鉦と太鼓が打ち鳴らされ、

〽 ショーリ ガーミョー オークルヨイ

  ショーリ ガーミョー オークルヨイ

と囃している。 ➡ 音声

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囃しの内容は、「精霊(しょうりょう)神を送るヨイ」という意味のようだ。

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依り代はしばらく練り歩いて、河原へ下りていく。

この行事は先祖の霊を送っていくというよりも、虫送りのような意味合いの行事なのだろう。

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河原に放置された依り代。ちょっと不気味。

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百八灯というと、お墓への道にロウソクを立てるような小規模なものを想像していたが、これは村を挙げてかなりの予算感で運営されている行事だった。

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なお、この行事は県指定無形民俗文化財に指定されている。

文化財の看板。

(2013年08月16日訪問)

日本俗信辞典 衣裳編 (角川ソフィア文庫)

文庫 – 2021/7/16
常光 徹 (著)
ネコは家から盗み出した手ぬぐいをかぶって踊る」「赤褌はフカが恐れる」など、衣類を中心に、履物、被り物、裁縫道具、化粧道具、装身具、寝具に関する民間の言い伝えを収集。

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糸のほつれを解くおまじないなど、冒頭から興味深い内容ばかりでした。