下長谷の沈下橋

古い遍路道が園瀬川を渡る場所だった。

(徳島県徳島市八万町下長谷)

四国には八十八ヶ所の札所を歩いて巡るための「遍路道(へんろみち)」といわれるルートがある。GoogleMapsや道路地図などには表記されていないが、四国に住んでいれば自然にどの道がそうなのかはわかってくるし、初めての歩き遍路でも道々に札やシールなどの道案内があるからだいたい迷わずにその道を歩くことができる。

徳島市付近には13番~18番の札所があり、遍路道はだいたい白い点線である。眉山(びざん)の北麓のあたりの路地は、泣いてしまうくらい好きな場所で、私は四国に転居する以前に仕事で徳島市を訪れたときにも、夕食後に宿を出て何度も歩いたものだ。

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遍路道には所々にオプション的な別ルートがある。徳島市内では「地蔵越(じぞうごえ)」と「あづり(ごえ)」という2つの峠を越える別ルートが存在する。17番→18番を直線的に結ぶ最短ルートなのだが、標高差100m以上ある峠を2つ越えることになる。現代ではここを歩く遍路はいないと思う。

「あづり越」は弘法大師が四国霊場を開いたときに通ったとか、源義経が屋島攻めで通過したと言われる古道だ。現代人にとっては大変な峠だが、当時の徳島市域は三角州の川や湿地の連続で、足下の硬い山のほうが歩きやすかったのかもしれない。

これから紹介する沈下橋は、この遍路道の別ルートを通ったときに園瀬川を渡る場所なのだ。

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地蔵越から眉山を下ってくると八万町というエリアになる。

このあたりは、徳島の奥座敷といった風情の場所。「坂井屋」というリーズナブルな日本料理屋や、遅くまで営業する日帰り温泉の「八万温泉」、森の中の喫茶店「花杏豆(はなあんず)」など、隠れ家的なお店がオススメだ。

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沈下橋の名前はわからない。

近くの字をとって「下長谷の沈下橋」とでも呼ぼう。

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地蔵越方向から、あづり越方向を見たところ。

奥に見える山並みにあづり越がある。

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沈下橋の通行に関する注意看板。

徳島の行政用語では「潜水橋」となっている。

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通行止めの可動式標識。

真ん中で折り返すとおそらく「通行止め」の標識になるのだろう。

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橋の全景。

対岸の堤防が2重になっているのは、奥側に新しい堤防を築堤中だからだ。新しい堤防ができると川幅は30mくらい広くなり、かつ、堤防の高さも3mくらい高くなりそう。

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橋の幅は狭すぎて、私はここを車で通行したことがない。まぁギリギリ通れそうではあるが、ホイール擦りそうで怖いし、対岸のT字が鋭角で普通車が曲がれないのではないかと思う。

小型の軽自動車か軽トラならば通行でそう。

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沈下橋のすばらしいところは、通行する人が川を間近に感じられることだ。

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このあたりの護岸は消波ブロックで出来ていて、魚や小動物が隠れる場所がたくさんある。

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ワンドも小魚や昆虫の住み家になる。

沈下橋を通れば、こんなふうに川の様子を知ることになるのだ。抜水橋ではそうはいかない。

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河道の中からみた上流。

わが家がある方向だ。

2023年に衛星写真を見ると、橋の対岸の鋭角なT字路は改善されて緩いカーブになっている。

(2006年12月30日訪問)