五百羅漢寺

須弥壇の下を潜る巡礼形式の本堂。

(和歌山県和歌山市和歌浦東)

だいぶ昔のことになるが、横浜に住んでいたころ、紀伊半島の海岸線を時計回りに一周したことがある。そのころはまだインターネットに情報もろくにないような時代で、ドライブマップを頼りに気まぐれに観光地を訪ねたものだ。その当時、特に探していたのはさざえ堂巡礼型五百羅漢堂だ。いまとなっては信じられないかもしれないが二十世紀末には日本のどこにどんなお寺があるのかわからず、有名な観光寺院以外は実際にそこに行って確認するしかなかった。地方出版物を買い漁ったり、ドライブマップを集めたりして情報を収集していたのだ。

そんな中で五百羅漢というワードから見いだしたのが、ここ和歌山市の五百羅漢寺だ。以前訪れたときには写真を撮っていなかったのであらためて訪れた。

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この日は雨がぱらつく薄暗いような日だった。

お寺は国道42号線に面しているが、ちょっと車通りからは見えにくい場所にある。この細い路地がお寺のアプローチになっている。

本来は山門の南側の土地が広範に寺領だったと思われるが、貸地しているのか売ったのか、寺のすぐ前がカーディーラーになっていて、その壁と山門が窮屈に向き合っている。

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従って、山門を正面からカメラに収めることはできない。

愛知県碧南市の海徳寺というお寺も似たような山門がある。こうした配置はたまに発生してしまうのだろう。

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楼門を裏側から見たところ。

大型楼門としてはめずらしく、踊り場階段で階上へ登れるようになっている。ふさがれていて登れなかったが。

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山門の前が狭いだけでなく、境内も狭い。

寺の裏山も寺領だから、裏手には広大な墓地もあり、敷地が狭いということはないのだけれど、本堂の前側がとにかく窮屈なのだ。

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本堂は入母屋裳階付き重層本堂。

いやぁ、もうね、この時点で胸が高ぶってしまうのよ。五百羅漢堂マニアとしては!

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本堂の左側には庫裏がある。

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本堂に入ると、内陣の本尊を取り囲むたくさんの羅漢像が目に飛び込んでくる。

本堂が五百羅漢堂を兼ねているのだ。「五百羅漢堂」については、名古屋市の大龍寺の記事で詳細に書いているので、まずそちらの稿をご覧いただきたい。

大量の仏像を参拝するには、広い場所に仏像を集めて一望にする方法と、順路を歩かせながら順番に参拝させる方法が考えられる。後者を当サイトでは「巡礼堂」と呼んでいて、最も好きな仏堂の形式であり、巡礼堂を紹介することはこのサイトを始めた動機でもあったのだ。

「無断で本堂に上がらないでください」とあるので、庫裏に行って見学をお願いした。

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このお寺の五百羅漢の配置はコの字型で、順路としてはわりと大味ではあるけれど、内陣とは手すりで分離されていて、明確に順路が作られている。

写真の左側が内陣にあたる。

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内陣側から通路を見たところ。

手すりが一部ない箇所があるけれど、ホゾ穴があることから本来内陣を囲うように手すりがあったと思われる。

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羅漢像は彩色された木像でやや痛み始めている。

ほぼ500体あるようだ。

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通路を進むと、須弥壇の裏側で階段を降りるようになっていてレベルが下がる。

トンネル状の構造なのである。

しびれる!

コの字型の廊下があるというだけでも感動してしまうのに、なんだろう、この秘密の通路みたいな感じ。この寺を建てた宮大工はおそらく江戸の五百羅漢堂を知っていて、この寺にもカラクリ的な通路を作ったのだ。

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大黒さんが通路に電灯をつけてくれた。

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すると、本尊の釈迦如来のいる須弥壇にも色つきのライトが点灯したのだ。

素晴らしすぎる。ミャンマーのお寺に行ったみたい。日本国内の寺で本尊にカラーライトを当てる寺って他では知らない。仏陀の威光がいや増して、すっごく好感がもてるんだけど!

日本の寺院ももっとこういう演出してもいいのではないの?

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須弥壇トンネルを抜けたところ。

本来の順路は時計回りだと思うのだが、本堂に上がらせてもらったのが右側だった関係で逆廻りになってしまった。

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内陣を一周したところ。

結論をいうと、さざえ堂好きの人はぜひこのお寺も見るべきだ。

現在見学が可能な巡礼型五百羅漢堂はここと徳島の地蔵寺くらいではないかと思う。もちろん、国内にはまだ私の知らない巡礼堂があるかもしれず、それを見つける夢はあきらめはいないのだけれどね。

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突然の訪問にもかかわらず見学させてくださった五百羅漢寺さま、ありがとうとざいました。

(2006年05月12日訪問)