横堤の名前は北吉見横堤。現在残る、荒川の最上流の横堤である。
横堤は高水時に川の流れを弱めるという機能を持っているが、それは同時に水を滞留させるということで、周囲の築堤が万全でなかったころ水害を発生させる事態もまねいた。そのため過去には紛争の種になったこともあったようだ。そのため現在までには撤去された横堤もある。
現代の強固な横堤は昭和4年(1929)から築堤が始まり、荒川の全体の治水計画を見据えて設置されている。
糠田橋は北吉見横堤の突端から始まっているが、横堤よりも対岸の崖線のレベルが高いので、上り坂になっている。
古いSF映画の宇宙船の発射台みたいだ。
糠田橋は横堤から角度を変えて北東方向に架橋されている。
それはかつて渡船場があった方向に向いているからだ。
明治初期～中期に作られた「迅速測図」という地図には荒川の改修以前の渡船場（河岸）の場所が確認できる。
その古地図に現在の現在の県道(オレンジ)と荒川(ブルー)で描き加えてみた。少し前のページで紹介した御成橋では渡船場がある古道とほぼ同じ場所に県道が建設されたが、糠田橋は古道とは離れた場所に造られ、糠田村に接続するために県道が曲げられたことがわかる。
さて、御成橋にある横堤上集落は昔の河岸場が移転したものではないかと推測したのだが、この糠田橋もそうなのだろうか。そもそも荒川河川改修前は明秋村はどこにあったのだろうか。そこで荒川旧流路右岸の現代の小字を調べてみた。最も北の「七耕地」や最も南の「蓮沼新田」などは農村っぽい名前だが、その間の地名「川通上町」などはまるで町場のようだ。田畑に付けられる字名とは思えない。
大正時代の地図を見ると荒川の両岸に堤防が築かれ、川沿いに人家が並んでいるのが確認できる。ここが明秋村の中心部だったのだろう。糠田河岸の部分には渡船の地図記号が見られ、御成河岸の部分にはすでに橋が架かっている。
昭和初期の地形図を見てみると、荒川の直線化と横堤が完成している。
明治43年(1910)には荒川で空前の大水害が発生してそれが河川改良のきっかけになったのだが、人々は水害の後も旧流路沿い暮らし続けていたのだ。横堤上には道路が通っているが、横堤上の集落はまだこの地図には現われていない。
荒川では明治43年の大水害のあとも、昭和時代には22年のカスリーン台風ほか2回の水害、平成時代に2回、令和元年(2019)にも水害が発生している。
昭和の水害のいずれかのタイミングで横堤が強化され、法面が居住可能な場所になり明秋村の人々が移住したのだろう。
北吉見横堤上の集落はすべて横堤の下流側に造られている。その点が東吉見第2横堤と違っている。東吉見第2横堤の集落は横堤の上流側にも家屋がある。
北吉見横堤の上流側法面はすごくすっきりしている。
県道上の風景。上流側にはまったく人家がなく、広々とした運動公園になっている。
横堤集落の南側から堤防へ登る道。
家屋、倉庫、ビニールハウスなどが高い場所にあり水害から守られている。一種の水塚だ。
（2022年11月22日訪問）