会津本郷町に三層の観音堂があるというので行ってみた。名前は
会津三十三観音の第21番札所になっているが、町外れの山の中にで、細い山道を10分くらい歩いて登らねばならない。
場所からして一般観光客が来そうな所ではない。無住のためやや荒れ気味。
観音堂は左下観音の唯一の伽藍であり、いわゆる
この堂を三階建と呼ぶのには理由がある。
通常は懸崖造では床下部分は柱だけで床や壁はない。ところが左下観音堂には床があり階段で階下に降りることができるのだ。
入り口は三階にあり、崖から渡された橋を通って入る。
まず「お堂に橋で入る」ってのがしびれる。
三階部分にはバルコニーがあり、いわゆる通常の清水の舞台になっている。
ただし、人里離れた山中に建っているので眺めと言っても近くの杉山が見える程度である。
三階の内陣で観音を参拝すると、なんとなく内陣の裏になにかありそうな気配がした。これはもう、長年へんな建築を見てきた者の習性で、さっそく背面に廻ってみる。
そこには通路があり、その突き当たりはなんと洞窟になっていた。思わずうなってしまう。
懸崖造観音堂というだけでもちょっと嬉しいのに、その背後が洞窟になっているとは、わかってるな~。
懸崖造の堂を建てるような者の嗜好は、やっぱりこういう方にも向いてしまうのだろう。こういうタマシイは江戸時代の人も、現代人も変わらないのだろう。
洞窟の内部には石仏があり、ちょっとした賽の河原的な風情も感じられる。洞窟の出口は絶壁にぽっかりと口を開けており、そこから外に出ることはできない。洞窟の天井から下げられた鈴がなんとも哀れを誘う。
さて、いよいよ階下について見てみよう。写真は三階から二階に下りる階段部分だ。後の時代にとってつけたような感じである。
二階部分には壁が設けられていて一応部屋の体裁にはなっているが、随所で壁は破れていて採光は確保されている。二階には仏像や仏具などは置かれていない。
二階から一階に降りる階段は前半が崖に渡された緩やかなスロープになっている。そこで崖の平らな部分を踊り場として利用し、後半はまた階段になっている。
写真では露光が不足していてわかりにくいが、中央の三日月型の暗がりのところにスロープの手すりが見えている。また、写真の三階欄干のすぐ右側の崖に丸い黒く写っている場所が胎内くぐりの出口の穴である。
左下観音は地方のマイナーな堂でありながら、懸崖造、随所にある橋、洞窟などが複合した内容の濃い建築であり、私のように奇抜な仏堂を愛好するものにとって見逃せない一品といえるだろう。
(1999年08月22日訪問)