安楽寺

5ヶ寺の塔頭のある巨刹。二重門、重層本堂、袴腰鐘楼と堂宇も充実

(愛知県蒲郡市清田町門前)

東海方面へ遠出するときはたいていは深夜の国道 246 号線で御殿場を越え、三島から国道1号線を走ることが多い。だがこの日は家を出たのが昼間だったので、東名高速を使って蒲郡を目指す。去年から何度か蒲郡を訪れているので、今回はいままでと違ったルートで市内に入ってみることにした。

蒲郡市の地形は少し鎌倉に似ている。鎌倉でいえば北鎌倉から市内に入る亀ケ谷の切り通しに相当するのが、国道473号線である。

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その国道で蒲郡市内に入るとすぐに右側に重層の大屋根が見えた。遠目にもかなりの巨刹と見えたので、さっそく立ち寄ることにした。違う道を通れば、違う発見があるものだ。

寺は安楽寺といった。

寺の前は 300m くらいの参道が続いている。境内の入口には大きなクロマツが生えていて、いかにも名刹の参道という風情である。

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山門は腰長押付きの立派な四脚門だ。

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山門を入ると、左右には塔頭が並んでいて、本堂まではまだ100mはある。塔頭(たっちゅう)とは、大きな寺の敷地内にある小さな寺のこと。現役の塔頭が2ヶ寺以上あれば名刹、というのが私の基準なので、5ヶ寺の塔頭が現役で残っている安楽寺は文句なく名刹といえる。

塔頭は別ページで紹介するとして、まず安楽寺本体の伽藍を説明する。

山門を入ってまず左側にあるのが十王堂である。

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内部は二段になっていて、下部に十王、上部に菩薩が並んでいる。十王堂ではよくこのような配置を見かける。閻魔大王は道教由来の神様で、その本地は地蔵菩薩ということになっている。他のメンバーにもそれぞれ本地となる仏があるので、それぞれ対応して並べてあるのかも知れない。

下段の左端には、生前の悪業を映し出す閻魔庁のビデオ端末「浄玻璃鏡」もあり、なかなか本格的な十王堂である。

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十王堂を過ぎてしばらく進むと、三間一戸二重門がある。

桟瓦葺きで、しっかりとした作りだが、案内板によれば江戸中期の門とのこと。屋根などは一度葺替えているのではないだろうか。

この門の屋根の垂木(たるき)(=軒にある櫛の歯のように見える部材)は、材の長方形の断面の短いほう(横幅)と同じ間隔をおいて並べる本繁垂木という高密度の並べかたで、三手先の組み物とあいまって非常に情報量の多い意匠になっている。

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登ることはできなかったが、二階には十六羅漢が安置されているとのことである。

二重門の登楼用の通路は、初層の屋根組の中を通過しなくてはならず、途中で踊り場を設けて折り返すなど複雑になりがちである。この門ではハシゴが建物の外側に付けられていて、軒の部分から二層に上がるようになっているめずらしい構造だ。おそらく小屋組みの中に踊り場があって、二階の室内に出るのだろう。

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二重門を過ぎると左側には鎮守社がある。

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鎮守社の先には水盤舎。水盤と井戸が併設された大型の水盤舎だ。

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水盤舎を過ぎると、本堂の左手前に三十三観音堂がある。中京地方に多く見られる堂宇である。

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本堂は重層。その関係で大棟はかなり高くなっていて、離れた国道からもよく見える。

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本堂の右側には大玄関、庫裏。

ここからは見えないが庫裏の奥には書院のような建物があった。

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庫裏の前には袴腰鐘楼。

境内は広くて伽藍のレベルも高いので、かなり満足度は高い。境内は駐車場になっている。

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本堂は開いていたので上がらせてもらった。

本堂に上がるとまず板の間、次いで畳敷きの外陣があり、外陣と内陣の境界には虹梁風の差鴨居で区切られている。浄土宗本堂の典型的な構造である。

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差鴨居の上の欄間彫刻には四人の天女が彫られていた。

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四天女の持ち物などの構成は以前に紹介した龍昌寺(禅宗)などと同じ。

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彫り物だけでなく、極彩色の斗栱が極楽世界を作り出している。

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本堂内で見かけた阿弥陀如来。

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同じく本堂内で見かけた地蔵菩薩。眷族には制多迦童子(せいたかどうじ)(左の赤いほう)と、矜羯羅童子(こんがらどうじ)(右の白いほう)が控えていた。

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本堂は平面は凸型になっていて、後ろの突き出したところは内部は位牌堂になっていた。凸型の本堂にはよくある構造である。

いままで、本堂の後ろにつながっている位牌堂について、宗派別の本堂の形式や本堂の発展の歴史の視点から考察した文章は見たことがないが、この部分にも特色が何か見いだせるのだろうか。今後、意識して見てみたい部分だ。

2015年に本堂を火災で焼失し、2024年現在はRC造の仮本堂が建てられている。

(2002年02月09日訪問)

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