祖母島の養蚕農家、横手家。
稚蚕飼育所をみせてもらったとき、飼育所で養蚕火鉢というものを使ったという話を聞き、そのときに実物を見せてもらった。
庭先で植木鉢として使われていたもの。
うわぐすりがかかった陶器製だった。一見すると睡蓮鉢のようにも見える。
横手さんも、もしかしたら違うかも知れないとのことで、わざわざ家の中で使っている養蚕火鉢を出してくれることになった。
横手家は切妻2階屋で、左勝手(入口の土間が左側にある造り)。
2階は養蚕のときの上蔟室になっていて、上り下りにはリフトをエレベータ代わりに使っている。
これが養蚕火鉢。
瓦のような焼き物で、黒光りしている。2箇所ある取っ手は鬼のデザインになっている。
養蚕火鉢を、このとき初めて見たのだが、とてもよいものだと感じた。
このとき以来、このくらいの状態の養蚕火鉢を手に入れたいと思って、古道具屋などを覗くようにしているのだが、なかなか出物がない。
横手家のかしぐね。吾妻川を吹き下ってくる寒風を避けるためのものだ。以前より小さくなっているそうだが、枝を門のように仕立ててあるのが立派。
近くで見かけた農家。右勝手で、右前リフト。
関東地方の農家の間取りは右勝手が多いと言われている。季節風を避けるために、北西側に開口を少なくするためではないか。
南側の玄関の横に風呂があるのは、古い間取りの名残だ。
同じく、近くで見かけた農家。右勝手で、左前リフト。
養蚕農家の形態の分類時は、主に上層の屋根の造りで区別することが多い。だがもう一つの着眼点として、上蔟時にどうやってカイコを運んだかという点を見比べても面白いと思う。
このようにリフトが前後左右のどこにあったか、あるいは、階段、渡り廊下などから搬入したというような違いがあり、母屋の工夫点の一つだからだ。
(2008年05月01日訪問)